ボストンのビール「スペンサー・シリーズ」

DSC00095マサチューセッツ州ボストンにスペンサーという私立探偵がいる。レッドソックスが好きで、ドーナツが好きで、スーズを愛し、ボストンを愛し、リッツのバーで飲むサミュエル・アダムスが気に入っている。スペンサーに会いに行くために、ある年の夏、ボストンを訪れた。手には『スペンサーのボストン』。暑い夏だった。彼の事務所があるバックベイのF.A.O.シュワルツの向かいのビルを訪ねた。残念ながら留守だったので街を歩いてみた。パブリック・ガーデンの白鳥のボートも、チャールズ河のヨットも、河畔を走るランナーも、初めて来た街なのに奇妙な親しみがあった。つくづく良い街だった。

スペンサーは、ロバート・B・パーカーが30年以上に渡って書きつづける、ハードボイルド小説の主人公だ。80年代前半に初めて第9作「儀式」を手に入れた後、しばらく本棚に積んであった。友人から「今、いちばん面白い!」と自分の読みかけを無理やりプレゼントされたにもかかわらず、なぜかしばらく読む気持が起きなかったのだ。

そして何年か後に、あるきっかけで1冊読み終えた後は、全ての著作を読んだ。スペンサー・シリーズ、ジェッシィ・ストーン・シリーズなど、数えてみたら我家の本棚には47冊が収まっている。たぶん日本で買える最新作までの全てだ。

実在しない人物が住む街を訪れる。実在しないのに、街のあちこちに気配を感じる。自分でも不思議に思いながら、そんな気持を自然に受け入れられる。『スペンサーのボストン』は、著者が登場人物たちと一緒に街を紹介する、スペンサー・ファンのためのボストン・ガイド。パブリック・ガーデンを散策しながら、リッツのバーでサミュエル・アダムスを一杯やりながら、スペンサーのセリフを思い出しながら、眺めて楽しい1冊だ。

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