今年の観劇、1本目「時の男」リリパ、そして3本目

p100「あぁ、もういないんだなぁ…」改めて、そう感じる瞬間がある。いなくなった人の、“存在”を感じることがある。若くして亡くなった友人だったり、子供の頃に可愛がってもらったおばあちゃんだったり。“不在”を意識することで“存在”を思い出すのではなく、“存在”を感じ、より“不在”を明確に意識してしまう。なぜ、そこに、彼が、彼女がいないのか…。

リリパット・アーミーⅡの「時の男~匂うがごとく今盛りなり」を観た。2年ぶりの東京公演。一緒に出かけた友人夫妻はこの劇団に所属するコング桑田という怪優ファン。しかし彼は「レ・ミゼラブル」に出演中。残念。そして何よりも名誉座長、中島らもがいない舞台。公演が始まる前のショートフィルム上映(劇団とスポンサーのCM付き)もない。少し今までの公演と違う淋しさを感じながら観始めた。でもそんな不安も、すぐに氷解。主役の新人、キリタ役の谷川未佳がさっぱりとした良い味。茜子役の千田訓子との絡みも、ちょっと危ない(客席に向かってゴルフボールを打ち込むな!)朝深大介と野田晋市のコンビも悪くはない。楽しい舞台。劇団創立20周年記念の舞台としてふさわしい出来。

でも、観終わるとやっぱり何かが足りない。脱力感満載の中島らもの存在が、「あ、らもさん、ここで出てくるのかな?」というシーンが。そこでわかぎゑふが「しゃあないなぁ」という顔でなだめる場が。そして劇団名物スポンサーのカネテツデリカフーズの「はもちくわ投げ」が。(知らない人にとっては、何のことやら…)パンフレットにも“故中島らも”と短く触れているだけ。中島の存在を語らず、独自に歩まなければというわかぎの気概なのだろうか…。

後日、キッチュ改め松尾貴志が主催するAGAPE STOREの人気公演「BIGGEST BIZ」を観た。その舞台で松尾が中島らもの物真似をするシーンがあった。気だるいモノ言いのアル中のらもさん。そこに、確かに、瞬間的に“中島らも”がいた。舞台でリリパの舞台でも一緒だった松尾が真似た中島らもではなく、彼の愛した中島らも本人が。

「言葉にして行かないと、思い出は風化する。忘れられた人は、それこそ、本当に死んでしまう」…山田詠美『PAYDAY!!!』の中で、9.11に亡くなった妻のことを、子供に語る父のセリフ。そうなのだ。思い出すとき、その人は傍にいる。今年3本目の芝居を観終わった後、単なる観客や読者としての自分の思い出だけではなく、ずっと一緒に舞台に立ってきたわかぎゑふや松尾貴志のそれぞれの思いに触れた気がした。

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