甘さ控えめ『太陽待ち』辻仁成

P1_18しばらく読むのを避けていた作家がいる。気に入ると全作品を読む傾向にあるため、読後の評価には当たり外れがあり、外れが続くとしばらく離れてしまう。決して中山美穂ファンだったため、僻んだり逆恨みをして読まなくなった訳ではない。(どちらかと言えば、舞台で良く観る機会があった南果歩の方が好きだったぐらい)最初の一冊『ピアニシモ』は、ミュージシャンが書いた割には巧いじゃん、ぐらいの感想。ECOHESの辻仁成(つじ・じんせい)としての評価。

それが、『海峡の光』や『白仏』あたりで、作家辻仁成(つじ・ひとなり)として、大きく評価が変わった。抑制が利いた文章で書き綴られた、ちょっと苦めの物語が好きだった。ちょっと気取ったスタイルも、“元?ミュージシャン”だしなぁと許せた。『白仏』のフランスでの高い評価や、フェミナ賞の日本人としての初受賞は、読者としてかなり嬉しかった。(村上春樹がノーベル文学賞を逃したのは、残念だったけど、何故かちょっとほっとした)なのに、江國香織との企画小説『冷静と情熱の間-Blu』あたりから甘さ(LooseとかEasyではなくSweet)が気になりはじめ、あざとさを感じるようになり、『彼女は宇宙服を着て眠る』などいくつかの作品は、途中で挫折。しばらくの期間、距離を置いていた。

そして、久しぶりに手に取ったのが『太陽待ち』。導入部分で甘さが気になったものの、それもすぐに解消。あっという間に現在と過去、東京と広島、北海道と南京、それらを繋ぐ不思議な空間が作る魅力的な世界に閉じ込められてしまった。読み終えて自分の現実に戻るのが惜しいぐらいの一冊。新宿で撃たれ、昏睡状態の兄の“魂”が空間や時間を飛び越えて、現実と夢想を結びつけて、人と人を出会わせる。矛盾や不整合は気にならず、かなりの長編にも関らず、一気に読ませる力を持っている。満足。

妻にも薦めたが、まだ半信半疑。手に取ってはくれない。「だって『嫉妬の香り』もつまらなかったし・・・」彼女は徹底的に甘さを嫌う。(チョコやアイスは大好きなのに)甘い恋愛描写は読むスピードを鈍らせるらしい。そして同じ“甘い”という理由で江國香織も苦手。「最近は、<グレッグ・ルッカ>が面白いよ。『守護者(キーパー)』でデビューした若手でね。『耽溺者(ジャンキー)』とか『暗殺者(キラー)』とか、読んでみたら?」プロのボディ・ガードを主人公にした人気シリーズ。・・・辛いもの大好きの妻。確かに本のタイトルも辛(ラー)そう。

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