猥雑的香港(街歩き編)「魔都変幻」

Photo_26通りいっぱいに突き出した怪しくど派手に輝くネオン。何かを強引に売りつけられそうな、街に屯する胡散臭い男たち。高層アパートの全ての窓からまっすぐ伸びる干し竿に旗めく洗濯物。ゴミが散乱する裏通り。罵声が飛び交う活気溢れる市場。汚く、下品で、それでいてとてつもなく魅惑的。10年以上前、初めてその街を訪れた時の、地に足が付かないような高揚感と不安感を今もありありと覚えている。お気楽夫婦に鮮烈な印象を残した街、香港。まだ“魔都”と呼べる怪しさを僅かに残していた。

Photo_27ところが、4年振りに訪れたその街は、大きく変っていた。高層ビルの建設現場の“竹”で組んだ足場や、再開発でなくなると聞いていた湾仔の市場はまだ(部分的には)健在だった。ただ、一本の通りを挟んで、以前は露店が続いていたはずの場所に、唐突に高層ビルが生えていた。美化運動が進められた結果、ゴミが落ちてない舗道は、シンガポールのように美しかった。九龍城砦が取り壊されたり、ビルを掠めて啓徳空港に飛行機が離着陸しなくなって以降、街が大変貌を遂げ、そして何より97年に中国に返還されて様変わりした街が、さらに“つるん”とした印象の、観光都市に変化しつつあった。

Photo_28初めて明るい陽射しの下、ピークトラムに乗った。大陸からの観光客が増え、その団体客が歩き回る場所だけに“一昔前の香港”の臭いが付いて回っていた。ヴィクトリア・ピークから俯瞰する風景は、美しく、清潔そうに見えた。沢木耕太郎の『深夜特急』に存在した“香港”の臭いは、ほとんど残されていなかった。二人がその怪しい世界に惹かれて訪れた街は、もう存在しない。

Photo_29とは言え、この街の魅力は決して失われはしない。人を惹きつけるポイントや、街の表層が変るだけ。「昔は良かった・・・」と遠い目になる程かつての香港を知っている訳ではないし、逆にその幻影を求め歩くことがまた楽しみでもある。夜のクィーンズ・ピアを散歩していた二人の前に現れたのは、紅い帆の漁船<ジャンク船>を模した観光船「アクア・ルナ」。九龍側からヴィクトリア湾越し夜景を背にするすると近づいてくる姿は、まさしく二人が憧れていた香港の香りを運んできたタイムマシンのよう。過去から現れた亡霊のようなオールドスタイルの船員も、デッキで腕を組み、すっかり“なりきりポーズ”。わくわく、どきどき感満載。観光都市香港の面目躍如。

Photo_30こんな風景にも出くわした。2007年3月までの期間限定の移動遊園地。年末年始、香港のビルは一段と派手なイルミネーションで彩りを競う。そんな香港島側の金鐘(アドミラリティ)で、一段と周囲に怪しい度数が高い光と喧騒を撒き散らす場所がここ。決して目新しい絶叫マシーンがあるわけではないが、目を輝かせた子供連れや、若いカップルで賑わっていた。こんな、街のど真ん中に、突然何かが出現しても決して不思議ではない街なのだ。

Photo_32そして、驚きの街の極めつけは、毎晩20時からスタートする光と音のショー「シンフォニー・オブ・ライツ」。香港の夜景が、さらに美しくなるクリスマスシーズン。ヴィクトリアハーバーを挟んで対峙する30棟以上の高層ビル群が“出演する”光のイベントだ。ショーが始まると、DJが出演ビルを紹介する。そして各ビルは名前を呼ばれると、絶妙のタイミングで屋上から夜空に向かってレーザーを照射する。イルミネーションを点滅させる。ふぁ~っ!こりゃぁ凄い。これが毎夜行われているんだぁ・・・。ところで、参加しているビルはほぼ全てがオフィスビル。間違いなく内部で働いている人たちは仕事にならない。それでも、やってしまう。それが香港。

Photo_31街全体が生命体のように進化し続ける“変幻都市”香港。この街では日々いろいろなものが確実に変って行くけれど、変らないものがある。それは、猥雑なエネルギーに満ち溢れた、“街の核(コア)”。狭い地域にみっしりと犇き合い聳え立つスカイ・スクレーパーの群のように、そこに留まることを良しとせず、空に向かって伸び続け、空(未来)に挑む街。そこから発生する磁場が、訪れる人を惹き付け、街をさらに変貌させていく。変化することこそが、きっと香港の魅力なのだ。・・・あれっ?長文だし、オチが見つからないよ?妻が口を挟む。まぁ、無問題(ノー・プロブレム)。最後の写真がオチってことで・・・。

・・・To be continued

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