名残の夏、名残の鮎「たん熊北店 二子玉川店」
2008年 9 月14日(日)
何度か妻と2人で乾杯をした。友人たちや元同僚たちにお祝いもしてもらった。それは、転職祝いだったり、送別会だったり、場合によっては暑気払いという名目で。いずれも楽しい酒だった。たっぷりと飲んで、美味しく食べた。けれど、妻と2人でお祝いの〆を(なんだそれは!)するには、やはりこの店。「たん熊北店 二子玉川店」は、パークハイアット東京の「ニューヨークバー」と並ぶ、お気楽夫婦にとって特別な店。同じお祝いでも、2人で夜景を眺めながらしっとりと飲み語るなら「NYバー」だし、美味しいものを食べ、幸せな気分になりたいなら「たん熊北店」だ。いつものカウンタ席に座り、板場を眺めるだけで笑みが零れてしまう。幸せの味を目で先取りだ。そして、ビールとお茶で乾杯の後、一品目の「ずわい蟹と菊花のあちゃら和え」にさっそく舌鼓。ふふふ、旨い。舌の幸福もやってきた。
「夏に鮎や鱧を食べに来たかったんですけど、来そこねちゃって・・・」妻が店長の本城さんに声をかける。他では店のスタッフとコミュニケーションを取ることのない妻も、この店ではリラックスして会話ができる。「あぁ、ちょっとお待ちください」本城さんが板場の奥のスタッフに声を掛ける。「ありましたわぁ。2尾だけ。名残の鮎ですね。取っておきます」「嬉しい♪もう食べられないと思ってた」2人が大好きな夏の味、鮎の塩焼きを今年は食べそこねていた。「名残の鱧もありますよ。もうこれも最後ですね」と、板場の保坂さん。おっ、じゃあ鱧もお願いします。「湯引きにしますか。それとも炙って召し上がりますか」うぅ〜ん、どちらも美味しそうだ。「分かりました。半分づつお造りしましょ」嬉しい。ごりっごりっと、目の前で鱧の骨切り。去って行ってしまう夏の音だ。
ところで本城さんとは妙なご縁になった。お気楽夫婦が通うスポーツジムで偶然お会いしてスカッシュをご一緒したり、京都の店で修行中にお世話になったという魚問屋のお嬢さんが妻と同じ(元は私も)会社にいるとか。「いやぁ、いつもIGAさんのブログは参考にさせてもらってるんです」それは光栄です。「はしぐち亭にも、嫁と一緒に行ったんですよ」うぁ〜っ!それは嬉しいけどびっくり。橋口さんに伝えたら喜ぶだろうなぁ。「サービスの面とか、自分のスタイルができるまで、今がきっと頑張りどころでしょうね」はい、お伝えしておきます。それはそうと、今度奥様も一緒にウチの近所の四川料理の店に行きましょう!「ぜひお願いします!」その間にも、「フォアグラと大根蒸し」をいただき、すっかり妻の目はハート。「ここは、ほんっとに幸せな味だよねぇ」
きっと料理の素材やら、技やら、店の格式や伝統を語れば「名店」は山ほどある。しかし、山ほど店があるから、行き尽くせないから、出会った味が大切だと思っている。出会った人に感謝しなければいけないと思っている。食べることは大好きだけど、決してグルメ(美食家)などではないお気楽夫婦。2人が好きな味は、器の上に乗っている料理の味だけではなく、お店が、人が創り出すもの。美味しく、楽しく、心地良く食べて酔える店。まさに、ここがそんな店のひとつだ。「うわぁ、今年最後の鮎だ♪」香ばしく、ほろ苦く、そして何より去って行く夏の味だ。「今度はチーム・アラフォーのメンバーと一緒に来なきゃね」そう、2人にとっての名店は、親しい人と共有したい味、でもある。「ねぇ、いつ来る?予約してく?」この店は妻を幸せに、そして貪欲にする。