さすがマキノ、やるなぁ鈴木♡『富士見町アパートメント』

無料パンフ転車キンクリートという劇団があった。1982年、日本女子大学に在学中のメンバー(当然女子だけ)で結成され、1995年まで東京を中心に公演を重ねた。メンバーの飯島早苗が脚本を書き、鈴木裕美が演出、毎回客演を招き上演するというスタイル。久松信美、樋渡真司、徳井優、京晋佑など常連の客演男性俳優たちと交わす台詞に、同じ年代である飯島が描く脚本の世界に、鈴木裕美の演出にハマった。第8回公演以降、全作品を観る程のファンだった。そして、1992年から現在まで行っている「自転車キンクリートSTORE」というプロデュース公演の大半も観続けてきた。けれど脚本飯島、演出鈴木の組合せではなくなった最近の公演には不満もあった。敢えて見逃した公演もあった。ずっと寄り添ってきた「自転キン」とこれからは離れて行ってしまうのかと淋しく思っていた。

前チラシこに救世主が現れた。マキノノゾミだ。2000年に初演の俳優座プロデュース公演『高き彼物』。その年の鶴屋南北戯曲賞を受賞したこの作品で、お気楽夫婦はマキノノゾミに出会った。そしてマキノノゾミ作、鈴木裕美演出という組合せにも同時に出会えた。1発で、ハマった。マキノが主宰する劇団M.O.Pを観始めた。ところが、当の劇団M.O.Pは2010年に活動中止を決めていた。残念。けれど、彼の作品を追いかけることは続けよう、と。そして、昨年OPENした「座・高円寺」という劇場で行われる素晴らしい企画で、マキノ+鈴木に再会することができた。舞台は、富士見町という都内と思われる街にあるアパートの一室。そこで、4人の作家の書き下ろしによる、4つの物語の、4つの時間が流れる。それぞれ1時間前後の芝居が、2つづつ組み合わされて上演される。画期的な企画だ。

本チラシ外面転車キンクリートSTORE『富士見町アパートメント』。4つの物語は、全て鈴木裕美が演出。4人の作家は、蓬莱竜太、赤堀雅秋、鄭義信、そしてマキノノゾミ。お気楽夫婦のお目当ては、Bプログラムの鄭義信『リバウンド』とマキノノゾミ『ポン助先生』の組合せ。会場の座・高円寺でお気楽夫婦を待っていたのは、舞台の上の木造モルタルのアパート。2DKの間取り。アパートの壁をぶち抜いて、観客が物語を覗き見してるような感覚になる装置設定。開演前は緞帳代わりの木枠の窓がぶら下がっており、室内の様子を隙間から眺めることができる。これがなかなか面白い演出。違う公演を観る度に、今度はどんな登場人物なのかと、部屋の様子で伺い知ることができるという仕掛けだ。暗転し、幕ならぬ窓枠が上がり、お気楽夫婦にとって最初の物語『リバウンド』が始まった。

本チラシ洋一監督『月はどっちに出ている』『血と骨』などの脚本で知られる鄭義信の『リバウンド』は、3人の太った女性コーラスグループの物語。巧い。面白い。そして絶妙の配役。若き日の希望の象徴であるオーディションに出かける3人と、現在の挫折の象徴となる倒れた父の介護のために帰郷するメンバーを巡る3人。その間の時間の流れを暗転を使って巧みに表す。前後半でそれぞれ歌われるシュークリームスのナンバーが素晴らしい。そして2つ目の物語、マキノの『ポン助先生』は、もう絶賛。ポン助先生のキャラクターはシリーズ化して欲しいほど魅力的。かつて売れっ子だったマンガ家のポン助先生は、我がままで、直情径行で、プライドが高く、それでも憎めない。そして若いマンガ家役の黄川田将也が素晴らしい。マンガ家を目指して上京したての頃、売れ始め、挫折する、表情とキャラクターの作りが絶妙。

して何よりマキノの脚本だ。1時間余りの時間に、過不足無く登場人物の造型を行い、心配になってしまう程大きく物語の起伏を作り、破綻無く物語を完結させる。「これは良い芝居だね♫さすがマキノだね♡」妻の瞳が輝く。「鈴木裕美の演出も凄いね。2本ともホント面白かったね」興奮気味でかつご機嫌な妻は、封印したタクシーでの帰宅を選択。「もう2本、観に行っちゃう?」そうだねぇ、頑張って観に行っちゃおうか。タクシーの車内で公演情報を検索。帰宅後、さっそくチケットを予約。そして…。

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