中国とは?『蒼穹の昴』『珍妃の井戸』『中原の虹』浅田次郎

sokyunosubaruつて、彼の国は(もう面倒だから中国って言っちゃう)我が国が学ぶべき師であり、倣うべき先達であった。文字、思想、芸術などの文化面だけではなく、政治面や経済面でも日本は“大陸”に学んだ。シルクロードと中国を経由して日本に到来したものは無数にある。しかし、明治維新以降に両国の関係が大きく変わった。明治維新という無血革命(多くの血は流されたけれど)により大変革を遂げた日本は、善し悪しはともかくも、欧米列強と肩を並べるべく突っ走った。遅れをとった中国は、かつての教え子が成功させた明治維新に倣い革命を試みた。そして、長い停滞と混迷の時代に突入した。やがて日本は自らを過信し、驕り、中国を侮り蹂躙していった。かつての師に対する偏見は、その頃に生まれたはずだ。さらに、多くの日本人が持つ共産主義に対するアレルギー、中国が情報に乏しく謎の国であったことなどにより、多くの偏見が堆積した。やがて中国は開放政策を推し進め、いつの間にか世界の工場から世界の市場になり、後進国と呼べない巨大な力を持つ国となった。そのスピードに日本は戸惑い、負け(何が勝ちか負けかはともかく)を認められず、自信を失いかけている。そして、あの事件だ。あぁ。

chinpinoidoんな今、浅田次郎の中国シリーズが人気だ。清朝末期、光緒帝の時代から物語は始まる。『蒼穹の昴』では、春児(チュンル)と梁文秀という同郷の2人の数奇な運命を軸に、西太后、李鴻章などの歴史上の人物が織りなす壮大な物語が綴られる。それぞれの人物描写に魅力が溢れ、歴史で語られる人物像を大きく塗り替えしてしまう視点、嘘もここまで大きければ真実の物語のように思えるというダイナミックな展開。もちろん史実を踏まえてのことではあるけれど。このシリーズにお気楽夫婦はハマった。元々、浅田次郎には偏見を持っていた。読まず嫌いだった。けれど、その偏見が氷解し、このシリーズを読み始めてからは敬ってさえ(凄いよ!この人)いる。『珍妃の井戸』は、他の2編(全4巻)に比べれば短い(1巻)エピソード。けれど、心に残る美しい物語だ。『蒼穹の昴』と『中原の虹』という大河小説の間に、光緒帝と珍妃の悲しい恋の物語を挟むことで却ってシリーズに深みを加えている。

chugennonijiリーズ最新作(文庫化という意味で)の『中原の虹』では、清朝の祖である努爾哈赤(ヌルハチ)から始まる愛新覚羅(アイシンギョロ)一族の物語、そして同じく満州の地に覇を成した張作霖の物語が加わる。『蒼穹の昴』から登場する春児、梁文秀、西太后、袁世凱など、数多くの登場人物が複雑に絡みながらも、物語が破綻することがない。縦糸と横糸が見事に織られていく。全てを読み終えた後に、なる程そうだったのか(歴史的にではなく、あくまでも物語として)という納得感と満足感が得られると同時に、これで終わってしまうのは淋しいという思いを超えて“辛い”とさえ思ってしまう。中国のことをもっと知りたいと思ってしまう。実際、本棚の隅に眠っていた中国の歴史本などを引っ張り出して読んだりもした。なぜ、中国の“今”がこのようになったのか。その歴史的背景を理解しようとすることにも繋がった。まだまだ理解すると言うには遠く、自論を構築するには至らないけれど。

chugokunotabiんな本も買ってみた。『浅田次郎とめぐる中国の旅』サブタイトルに『蒼穹の昴』『珍姫の井戸』『中原の虹』の世界とある。このご時世、中国をめぐる旅は叶わない(というよりも望まない…香港は除く)お気楽夫婦が楽しめる1冊だ。シリーズで描いた土地の情報だけではなく、歴史の情報も詰まっている写真入り読本。義務教育の期間中、日本では教えないと言っても良い近代史。当時の中国がどのような状況だったのか。日本が中国で行ったこと。その頃の我が国の政治的・経済的背景。そんなことを学ばずに両国の関係を語れはしない。逆に、中国では戦略的に反日教育を行っていることも問題だけれど。ところで、中華思想あるいは華夷思想ということばがある。中国が世界の中心だと言う発想であり、古から覇を競った民族、中原を制した王朝が唱えたものではある。プライドとその裏返しの劣等感、地球の人口の20%を占める国をどのように治めるかを考える時、その思想は今も生きている。

華料理はとっくに中原どころか世界を制しているもんね」と妻が言う。なるほど。料理では既に世界の中心。だから中国料理ではなく、中華料理(信じないでください!嘘ですので、念のため)。う〜む、その方が世界中が平和だ。

*老後にもう一度全巻読み直したいなぁ〜 と今から楽しみなシリーズ♡

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