親と娘の風景、浜松の日々。「割烹 弁いち」

F1Yakisaba Sushi5月の連休は妻の故郷である浜松へ向う。それがお気楽夫婦の恒例行事。例年であれば、ちょうどその時期に開催される「浜松まつり」で街は人で溢れる。けれど今年は開催中止。毎年100万人以上が集まる大規模なイベントだけに、警備の人員が確保できないというのが中止の理由のひとつ。周辺の市町村と合併し、2007年に政令指定都市となり、人口は80万人を超える浜松市。なのに街の中心部には昔ながらの町名が残り、町毎にコミュニティが残る。それを支えているのが、初子を祝う浜松まつり。各町毎に大凧を揚げ、御殿屋台を挽き、ラッパの演奏で町々を練って歩く。前年の参加は、なんと174町を数えたという。祭の運営にも課題が多いとは聞くが、これだけ大きな都市で町単位のコミュティが残るのは、ある意味では奇跡的。

Roten buroUnagiんな街に生まれた妻は一人娘。「今年はいつ浜松に行こうか」新年度を迎えると、決まって妻が尋ねる。一緒に住めない代わりに、機会ある毎に両親が住む街へ向いたい。そんな心情らしい。幸いなことに、私は旅行好き。新幹線に乗る前におつまみを買込んで、流れる風景を楽しみながら酒を飲むことが大好き。新幹線のシートに座ると自動的にビールが欲しくなるほど。デパ地下で何を買うかを迷うことも楽しく、車内の小さなテーブルにおつまみを広げ2人で小さな酒宴を開催することを思うと、わくわくしてしまう。そして、温泉好き。温泉の後のビールなどは、愛してさえいる。さらには、地の旨いモノを供してくれる旨い店があったりするならば、これは出かけない訳にはいかない。…そうなのだ。浜松へ向う旅には、それらの全てがあるのだ。

Ben Ichi松花堂んな風にいつものように自分のモチベーションを高め、新幹線に乗り込む。今年のおつまみはR/F1。小分けにされた9つの仕切りの中に少しづつ詰められた料理を眺めているだけで、笑みが零れる。ちまちまとデリを摘みながら新幹線は進む。ビールがすすむ。ワインがすすむ。品川から新富士駅辺りまで宴会は続き、浜松までの道中はデザートタイムとなる。そして、浜松に到着すると笑顔で無口な妻の両親が迎えてくれる。酒を飲まない彼らが初めて覚えたビールの銘柄であるYEBISUを、我々の滞在日数に合わせて数本買っておいてくれる。そして、まつりのない今年は日帰り温泉の予約までしてくれていた。館山寺温泉という浜松の奥座敷。のんびりと温泉に浸かり、ゆったりとした広間で地元の料理を味わう。私の役回りは、無口な親娘の3人をつなぎ、話題を投げ、美味しいねぇと3人の分まで言い続けること。

花山椒綿屋事付きの日帰り温泉のお返しは、地元の名店での食事。浜松滞在の最終日、いつもの割烹 弁いちに向う。きちんとオシャレをして出かける義父母。いつもの4人用カウンタ席の個室に案内される。「いらっしゃいませ。今日は松花堂弁当をご用意しています。ビールからになさいますか、それとも…」日本酒でお願いします。こちらにお邪魔してご主人おススメの酒を飲まないのは片手落ち。「かしこまりました。ご用意いたします」最初の1杯は東北地方の蔵元支援のためと、金の井酒造の純米大吟醸斗瓶採り山田錦45 綿屋を選んでいただいた。ふぅわりと柔らかな飲口。旨い。「この蔵元は幸い被害は少なかったんですが…」被災地の蔵元が、支援のためであれば日常の生活に戻りぜひ日本酒も飲んで欲しいと訴え話題になった。私も微力ながらとぐびり。そして2杯目は中取り大吟醸十四代。これまた実に旨い。

ShirotakenokoSien no sakeちら京都向日市(むこう)の白筍です」えぐみのないすっきりとした味。「はい、なるべく食材に手を入れすぎないようにしてます」料理の腕があり、食材を選ぶ目があり、食材を組み合わせる技があり、それを上手に供するセンスがある。相変わらずこの店には唸らされる。そして、食中酒として日本酒の持つ力に感嘆する。そんなやり取りをにこにこしながら聞いている義父母。お酒を飲むわけではなく、話題を提供する訳でもないから、時間をもて余し気味。「もうお腹いっぱい」小食の義母が呟く。夜のコースは(彼らにとっては)量が多く食べきれないということでランチにしたのだが、当日の朝食の量を減らすなどの工夫の余地がまだありそうだ。機会ある毎にこの店の口福を味わいたい自分のためにも、両親が元気なうちにはずっと一緒にこの店の料理を味わいたいという妻の希望を叶えるためにも。

と両親は3人の小さなコミュニティ。私が何かをサポートすることはできても、優先すべきは彼らの希望。「来年は50周年だよね。お祝いは何が良い?」妻が両親に金婚式のお祝いの意向を尋ねる。「館山寺温泉に泊まるのが良いかな」彼らの望みはいつも身の丈。身近な場所に希望が詰まっている。

れにしても腕が痛いなぁ」帰りの新幹線の車内で妻が零す。滞在中、2日間スポーツクラブに通い、男性メンバー相手にスカッシュコートを走り回った妻。女性メンバーが少ないこともあり、男性相手に試合を重ね、腕に負担がかかったようだ。「せっかくのスカッシュ合宿だったのになぁ…」って、おいおいっ!

■「食いしん坊夫婦の御用達」 割烹 弁いち のご紹介

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