バリアだらけの世界で『ベッジ・パードン』

Bedge Pardon誕50周年スペシャル企画★三谷幸喜大感謝祭!と銘打って、50歳になる節目の年である2011年に、映画、演劇、TVドラマ、小説の新作を計7本発表すると宣言した三谷幸喜。『ろくでなし啄木』『国民の映画』と立て続けに2本の舞台を終え、3本目の舞台『ベッジ・パードン』は6月開幕。幸い、お気楽夫婦はいずれの公演もなんとかチケットを手に入れ、観ることができた。ただし、『ベッジ・パードン』のチケットを入手したのは妻がアキレス腱を切る前のこと。手術後わずか3週間余りで、松葉杖をつきながら劇場に行くことになろうとは思ってもみなかった。手術の翌日から週に3〜4日は妻の出社に付き添いサポートする日々。松葉杖での歩行は、わずかな段差や床面の凹凸さえもバリア(障害物)になる。このタイミングで観劇は無理ではないかというアドバイスは妻には全く効果なく、観に行かないという選択肢は最初から彼女にはないらしい。

居の会場は三軒茶屋にある世田谷パブリックシアター。何度か芝居を観ている馴染みの劇場ではあるが、怪我人の視点で会場の設備を確認したことはあるはずもない。購入したチケットは2階席。エレベータはあるのか、車椅子用の席はあるのか、怪我人でも使えるトイレはあるのか。会場に確認の電話をする。「エレベータで2階席までご案内できます」との回答。ただし、車椅子用の席は別途購入の必要があるとのこと。そこまでする必要はないが、劇場はなんとかなりそうだと踏み、次に会場までのアクセスと観終わった後の行動パターンを検討。開演は19時。夕方に打ち合わせが入っており、さすがに妻の会社まで迎えには行けない。三軒茶屋までタクシーに乗り、会場近くで待ち合わせをすることにする。公演時間は2幕約3時間。事前に何か食べておきたい。約束の時間の少し前に会場周辺のロケハン。松葉杖でさっと食べられそうな店はない。駅前のサブウェーでサンドウィッチを購入し、会場に向う。

Mitani Koki口で松葉杖姿の妻を見ると、スタッフが声を掛けてくれる。「後ほどお席をご案内しますので、お声をおかけ下さい」ロビーはすでに観客で溢れており、食事をする椅子に空きはない。2階にも椅子はあるのか尋ねると「ございます。ご案内します」とスタッフ。するとエレベータは一般客が利用できない場所にある。なるほど。何度かこの会場に来ていても記憶にない訳だ。2階(建物としては5階)に上がると椅子がちょうど2脚空いているばかりか、スタッフがテーブル代わりの椅子を運んできてくれた。BLTサンドを食べ、客席の視察。う〜む、最後方の席で段差はないが、自分たちより奥の席の客が来る前には席に座れそうもない。難題。混む前にとトイレに向う妻。重そうな扉を他の客が開けてくれる。感謝。さすがにそこまでは私がサポートできない。開演直前、通路横の席に座っていた方へお願いし、席を交換していただく。またまた感謝。松葉杖を後ろの壁に立て掛けると開演。ふぅ〜っ。

居は、若き夏目金之助(漱石)のロンドン留学のエピソード。英語が上手く話せない留学生(野村萬斎)と、下宿の女中アニー(深津絵里)を巡るちょっとせつない恋物語。アニーはロンドンの下町生まれ。コックニー訛がひどく、「I beg your pardon」と繰り返し、ベッジ・パードンと聞こえた金之助に、あだ名でそう呼ばれた。20世紀初頭のロンドン、英語を話せない東洋人、ホックニー訛の女中。そこにはバリアがたっぷりある。生活習慣や文化の違いから生じるバリアだけではなく、ことばが通じないバリア。そして、登場人物それぞれが抱える苦悩、葛藤、コンプレックス。いつも通りに笑いもたっぷり詰まっている三谷幸喜芝居であるものの、ややビターなテイストが勝っている。明治時代の留学生にぴったりの野村萬斎も、やんちゃで健気な深津絵里も、どの芝居も地ではないかと思ってしまう自然な(?)演技の大泉洋も、美味しい役満載の浅野和之も、ずるく弱く強く歯がゆい浦井健治も、役者が良い。けれど、妻の様子が気になり芝居に集中できない。

ぅ〜っ、足が重いぃ〜」終演後、席を替わっていただいた方にお礼を言いつつエレベータに乗る。タクシーで自宅まで直行するしか選択肢はなさそうだ。後部座席で包帯を外す妻。「ふぇ〜っ、足がむくんでぱんぱんだぁ」元気な身体でも3時間の芝居はきつい。ぐったりとした2人、深夜のタクシーから降りる頃にはへとへと。「でも、なんとか観られて良かったぁ♬」と妻。彼女にとって精一杯のお礼のことばらしい。まぁ、良しとしよう。

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