ハズレ芝居の後で「三軒茶屋の夜」
2012年 10 月13日(土)
お気楽夫婦は芝居好き。毎年20〜30本前後の舞台を観る。NODA MAP、リリパットアーミーⅡ、ラックシステム、加藤健一事務所など、毎回欠かさず観続けている劇団がある。けれど好きな劇団の中には、劇団M.O.P.、自転車キンクリート、Piperなど、解散あるいは活動休止してしまった劇団もあり、継続的に新たな贔屓劇団探しをする必要がある。コンスタントに芝居を楽しむために、会場でもらうチラシのチェックは欠かせない。好きな演出家だったり、贔屓の役者が客演するなどの情報を頼りに、新たな劇団や公演を探すことになる。その中には嬉しい“当り”もあるけれど、もちろん“ハズレ”もある。
残念ながら、その日の芝居はハズレだった。その公演の脚本・演出はビッグネーム。日本を代表する演出家の1人。かつての公演にはお気楽夫婦の大好きな名舞台もあった。だからこそ期待して劇場に足を運んだ。けれど、その日は1幕が終わった時に、妻と目が合った。ここで帰る?どうする?と訴えている。そして、阿吽の呼吸で会場を出る。「う〜ん、辛かったね」数年に1度、こうして途中退場することがある。今回の巨匠は長年変わらない自分の演出スタイルに、自ら楽しそうに酔っていた。お気楽夫婦は一緒に楽しく酔えなかった。幸いにして2人の芝居の好みは合致する。何より楽しむために来ている芝居を観続けるのに、苦痛を伴うことは辛いのだ。
気分を変えて、美味しいモノを食べに行こうか!黄昏時の三軒茶屋の街を彷徨う。「ここにあった釣堀はすっかり跡形もないね」ん、確かに。あぁ、この店はまぁまぁ美味しかったね。「こっちの店も長くなったねぇ、頑張ってるなぁ」夜の街をのんびりとパトロール。ふと思いつき、初めての通りに向ってみる。小さなワクワク感。しばらく行くとこぢゃれたワインバル。開放的なテラス席があり、店の奥まで見渡せる。店のスタッフから「こんばんはぁ〜」と声をかけられる。ん、感じの良い挨拶だ。一旦通り過ぎて様子を伺う。何軒かの店を覗いた後「あの店にしようか」と妻。2人の嗅覚を信じて来た道を戻る。経験を重ねた2人の美味しい店選びに大ハズレはない。
そんな2人がテラス席に落着いたのは「La porte du vin」“ワインの扉”という名の店。店の規模の割にはワインが豊富。それにお手頃なグラスワインが何種類も。ふむ。どうやらワインショップが経営する店らしい。すっかり芸術の秋より食欲の秋に傾く2人。シャルキュトリー(肉の加工品)の盛合せのハーフサイズがある。ふむふむ。小食の2人はぴったり。他にもメニューには手頃な価格の小さなポーションの料理が並ぶ。これも嬉しい。椅子から転げ落ちそうになる程に美味しいと叫ぶ料理はないものの、カジュアルな雰囲気に合った柔らかなサービスが心地良い。普段使いに良い店だ。すっかり寛ぎ、良い気分。良い夜だ。良い街だ。大らかな気持になる夜だ。
「三茶も住み易い街だよね」学生時代にこの街に住んだという妻が懐かしそうに呟く。スポーツクラブがあり、映画館があり、劇場があり、美味しい飲食店がある。確かにお気楽夫婦の生活スタイルにはぴったり。「後はマンションを買換える資金があればね」…宝くじはハズレだけ。