ハモニカ横町の夜は更ける「吉祥寺ハシゴ作戦」
2013年 2 月09日(土)
ある週末、お気楽夫婦は迷宮を彷徨っていた。独特の光彩を放つ中央線文化圏の象徴的な存在である吉祥寺。住みたい街ランキングで不動の1位を獲得し続ける街。多くの商店街があり、井の頭公園の自然があり、個性的な飲み屋があり、Jazzなどのライブハウスがあり、行列のできる名物店があり、こじゃれたショップが数多くある。大型商業施設から個人経営の小さな店まで、駅を中心に数百メートルの歩ける範囲に集まり、街がコンパクトにまとまっている。中でも駅の北口すぐの一等地にあるハモニカ横町は、吉祥寺の魅力あるエッセンスをさらにギュッと濃縮し、魅惑的な空間を生み出している。
歩いて楽しい街だ。小路の入口にある看板が蠱惑的。ふらっと通りに入り込む。スペースを譲り合いながらすれ違う。狭い路幅が人と人の距離を近づける。どの店も小さく間口は狭い。けれど、通りに向って開かれている。店の外と中の境界がない。隣の店との境界が分からない。通りと店、街が溶け合っている。飲食店の呼び込みの店員の国籍はばらばら。料理のジャンルもインターナショナル。そんな迷宮に文字通り迷い込んだお気楽夫婦。街角を曲がり、同じ小路に戻り、店の選択に迷う。スカッシュの後、喉は渇き腹ぺこ。ふとタイ料理のチープな手書看板が目に入る。今日入るべき店はここか?
ヴェトナムビールの333(バーバーバー)とアイスティで乾杯。ふぅ。一息付いて店内を見渡す。プーケットの裏町にある風情。旅情を感じさせる。料理が出てくる。店の選択が間違っていたのに気付く。様子を見ようと、2品だけのオーダーにしたことが成功。すかさずハシゴ作戦に変更。さっと料理を平らげ店を出る。再び迷宮を彷徨う2人。次の間違いは許されない。人気店「ハモニカキッチン」の姉妹店「アヒル ビアホール」に向う。1階は酒瓶が棚一杯に並ぶ立ち飲みバーと焼鳥屋(てっちゃん)」がシームレスに同居。小さな十字路の斜向いの「カフェ モスクワ」も含め、同じ系列の店らしい。
スパークリングワインとジンジャーエールで再び乾杯。ざわざわと適度な喧噪が店を包む。1階の雰囲気とは違い、照明は明るく写真付きメニューが壁にデカデカと貼り出され、ちょっと興醒め。とは言え、料理はフツーに美味しい。ドリンクメニューも豊富で価格も手頃。気軽でカジュアルな使い方ならアリの店。調べて見ると、この店はICUの学生が1980年代に立ち上げたVICという会社が経営し、ハモニカ横町を中心に吉祥寺だけで20店近くの系列店があるという。なるほど。この企業がハモニカ横町のイメージを再構築したのか。吉祥寺の新しい文化を創りつつある勢いだ。
故野口伊織氏が1960年代からジャズ喫茶「FUNKY」を皮切りに、「西洋乞食」「サムタイム」「レモンドロップ」「金の猿」などの人気飲食店を経営し“吉祥寺を作った男”と称されたように、このような店を経営する若い力が新たな吉祥寺を作って行くのだろうか。「私は麦グループの方が好きかな」と妻。かつて、吉祥寺の街で気に入った店に出会うと、ほとんどが野口伊織氏率いる麦グループの店だったという経験のあるお気楽夫婦。果たして新たな店をハシゴすることになるのか。