Robert B.Parker『The Professional』 2009年11月15日初版発行。日本で刊行された時点では、この本がスペンサー・シリーズ最新刊であり、最終刊であるとは誰も思っていなかった。お気楽夫婦は、いつものように迷わず購入し、翌年のヴァカンスまでページを開くことを封印した。これもいつも通り。読み始めてしまったら、一気に読み通してしまう。それが分かっているから、大切に取っておく。夏に向けて、読みたい本を何冊か溜め込む毎年の習慣。その内の1冊は、確実にスペンサーの最新作だった。そして、2010年1月18日、その楽しみが最後になってしまったことを知った。私より早い時間に会社に向う妻からメールが届いた。i-phoneで新聞のダイジェストを読み、パーカーの訃報を知らせてくれたのだった。
ロバート B.パーカー、享年77歳。1973年のデビューから、37編ものスペンサーの物語を綴った。決して早過ぎるという年齢でもなく、主人公のスペンサーやスーザンの実年齢も数えるのが怖いぐらい。けれど、いつか最期がやってくるのなら、こんな終わり方が良かったのかもしれない。作者の意思で物語を終えることなく、作者自らの死をもって終えたことで、スペンサーも、スーザンも、ホークも、トニィ・マーカスも、クワークも、ベルソンも、全ての登場人物が永遠の生命を受けた。読者にとって作者からの最後のプレゼント。スペンサーは死なず、終わらぬ物語の中で生き続ける。
2010年夏のヴァカンスの地シンガポールで、スペンサー・シリーズ最後の作品を読んだ。最終刊となった『プロフェッショナル』には、そんなお馴染みの顔ぶれが揃った。そして、依頼者寄りになれず、加害者であるはずの強請屋の男に好感を抱く最後の物語。最後だと思うからこそ、そんなスペンサーの心情にしんみりとしてしまった。2代目の訳者、加賀山卓朗氏が最後の訳者あとがきに書いている。「作者曰く“スペンサーにはラブ・ライフがあり、背景(コンテクスト)があり、友だちがいる。彼は不幸せではないし、孤独ではない”」パーカーが目指し、離れていったチャンドラーの描くフィリップ・マーロウとの比較だ。真のハードボイルドではなく、ウィットに富み、それを依頼者や敵にさらけ出し、引かれ(相手の冷や汗が行間に見えてくることがある)、そして独りごつ。そんなスペンサーが好きだった。
『夜も昼も』2010年7月15日初版発行。ジェッシー・ストーン・シリーズ第8作目。これこそ最後の著作と思った作品の訳者あとがきに嬉しいニュースがあった。第9作目が近刊予定だという。サニー・ランドル・シリーズと合わせ、精力的に作品を世に出していたパーカー。『勇気の季節』2010年3月15日に刊行されたヤングアダルト向けの作品も、南の島のプールサイドで読むにはぴったりだった。冷たいウェットタオル、オレンジ、スタッフの笑顔、そして何よりも楽しみにしていた作品。こうしてスペンサーと過ごす、最後の夏が終わった。「ん?旧作を読み返せば良いんじゃない?私は読み返さないけどね」う〜む、そんな妻の発想も悪くない。
*その後、この時点では日本での発刊が未定だった38作目『盗まれた貴婦人』39作目『春雷』が発刊された。
女子会とは、女性だけが友人同士で集い、飲み、食べ、語る、男性の入る隙など全くない場…らしい。人気ドラマ『Sex and the City』でのキャリー(サラ・ジェシカ・パーカー)、シャーロット(クリスティン・デービス)、ミランダ(シンシア・ニクソン)、サマンサ(キム・キャトラル)の4人が明け透けで、容赦なく、ことばを選ばず、それでも快活に語り合う恋愛、セックス、仕事、食事、ファッション…。確かにそんな場には男は、ましてオヤヂが入る空間は存在しない。けれど、その女子会の話題は、恋愛ではなくピーナッツブックスのヒーローだったり(その主人公を彼女らの何人かは“彼”と呼ぶ)、セックスではなくスポーツ、それも夏の北アルプス縦走の話題だったり、スポーツクラブのスタジオメニューだったり。オヤヂが紛れ込むには充分だった。
5人の女性が毎月1回、“プティ・セレブの会”と称して、ちょっとゼータクな食事をするメンバーたちがいる。毎回、交代で幹事を持ち回り、行きたい店を決めるのだという。そして3年以上続いたプチセレの会に選ばれた店は、用賀 本城。お気楽夫婦を良く知る幹事の女性は、本城に行くなら2人を誘って…と企てた。そして、それにまんまと乗せられ本城に予約の電話。「あぁ~、IGAさん。ご無沙汰してます」なかなか直近では予約が取れず、しばらくお邪魔できなかったことを電話に出た奥さまに詫び、7人での予約だと告げる。「じゃあ、カウンタになさいますか?」え?人気のカウンタ席は望むところだが、カウンタは7席だけのはず。良いんですか?「えぇ、空いてますし」と、茶目っ気たっぷりの奥さま。まぁ、それも面白かろう。
「今朝から楽しみで、もう本城の近くまで来てます。コジマ電器で時間を潰してますが、もうちょっとで向かおうかと」当日、幹事の女性からメールが入る。おいおい、まだ30分も前だよ。入れ込み過ぎ。慌てて店に向かう。誰よりも先に店に着き、本城さんにその日の会の趣旨を伝えておきたかった。なんとか15分前に店に到着。幹事もまだ来ていない。ふう。カウンタ席の中央に座り、本城さんにご挨拶。女性6人、男性は自分だけの食事会で、お会いしたことのない人もいる、ということを伝えると「それは両手に余る花ですなぁ」との感想。なるほど。確かに余る。接待するぐらいのつもりで来たけれど、本城さんのコメントで、急にお気楽モードに突入。独りビールを飲みながらメンバーを待つ。
そこに幹事をはじめとしたメンバーが次々に登場。初対面の2人とも挨拶を交わす。中央の私を挟んで、右にプチセレの会立ち上げメンバー、左に妻と新規メンバーという構成。乾杯!の後は、左右それぞれで会話が進む。なにしろゆったりとしたカウンタ席。全員が同じ話題で話すには左右端のメンバー同士は遠すぎる。右では料理そっちのけで話が弾み、左では料理に感嘆し、ゆったりと話が進む。ふぅむ、面白いポジションだ。左右それぞれの話題に絡み、本城さんと会話し、料理を楽しむ。コンダクターのような、水先案内人のような、たまたま居合わせた他人のような、不思議な感覚。そんなこととは関係なく、いつも通り本城の料理は笑みが零れる皿が続く。はしりの鱧を二子玉川のたん熊で味わい、名残の鱧を本城でいただいた。ゼータクな夏。「ほんと、美味しいですね♪」会の中心人物が微笑む。それは良かった。話に夢中で料理はどうか心配だったけれど、味わってもいたんだね(笑)
「月に1回ぐらい、ゼータクをしよう!って、皆で集まるのが楽しみなんです」確かに、健全でポジティブ。仕事の愚痴だけではなく、会社の付き合いではなく、経費でもなく、自腹で美味しいものを食べるという女子会は、女性ならでは。オバちゃんの血が混じる私としては、参加していても何の違和感もない。「ところでIGAさん、福澤朗に似てるって言われませんか?」「なかにし礼の方が似てる!」右側の3人がケータイで画像を検索。すると3人が声を揃えて「なかにし礼ってことで!」福澤なら年齢が近いけど、なかにし礼だと、2回り近く年上なんですけど…。女子会に闖入したオヤヂの運命は、まぁ、こんなもの(笑/涙)
■食いしん坊夫婦の御用達 「用賀 本城」お店のご紹介