100年に一度の不況、と言われている現在。けれど、ぴんと来ないお気楽夫婦。確かに、妻が勤務する会社の経営は楽観視できない状況が続いてる。しかし、それは妻に言わせると「不況に関係なく始まったからね」というもので、それ以前に覚悟できていた状態。私の収入は大きく下がったが、それは「自分のため、地域のために、やりたいことが選べたのは幸せだと思うよ」という結果。つまり世の中の景気の動向に関係なく、お気楽夫婦は経済対策を打つ必要があり、実行して来た。まず、2005年、妻が現在も勤務するエンタメ系企業を私が辞め、大手通信系企業に転職。リスクを分散した。そして、住宅ローンなどの大型の負債を徹底的に削減してきた。そして、2008年、人的ネットワークを広げ、経済的な条件で仕事を選ばなくてもなんとかやっていける収支状況にできたタイミングで、通信系企業を退職した。
地域の「まちづくり協議会」に一個人として参加し、地域や商店街の活性化のためのコンサルティングとして仕事をする。仕事とプライベート、ギャラありの仕事とボランティア的な活動の境目がなくなっていく生活。これが日々充実しており、実に楽しい。理想は、収入がなくても活動できる状態。けれど、それは宝くじでも当たらない限り困難。とすると、更なる日常的な支出の削減が必要になる。けれど、美味しいものを食べに行ったり、お気に入りのホテルに宿泊したり、スカッシュで汗を流したりという、形が残らないモノに支払うことが大好きなライフスタイルは変えたくない。だとすると、事業仕分けならぬ出費仕分けが必要だ。まず、スポーツクラブの往復を電車に変更した。タクシーを使うのは、深夜に酔って帰って来る時だけ。往復の電車の中ではiPhoneのアプリで楽しむ。

この仕分けが実に楽しい。書斎のパソコンをリビングに持ち込み光熱費を抑える。新聞2紙を1紙に減らす。ヱビスを金麦(旨い♡)に変える。何か新しいネタはないかと夫婦が競って提案する。ゲーム感覚で出費を抑える。例えば食費。2人で働くお気楽夫婦に子供はいない。夕食は外食が圧倒的に多い。そこをチェンジ!ウチメシの回数を増やした。とは言っても、料理を作る時間はなく、無駄になるリスクが高い食材を買うのは躊躇われる。せいぜいがデパ地下で惣菜を買ってきて、盛りつけるだけ。これも楽しい。惣菜の購入担当は私。渋谷を経由して通勤するため、東横のれん街、東急フードショーをフル活用できるのだ。DEAN & DELUCA、R/F1、いとはん、味の浜藤、崎陽軒、美味しいデリを選び放題♫
まだゼータク?おっしゃる通り。そこで更なる削減策として登場したのが、レトルト食品。試してみたのが、マジックスパイスのスープカレー。黄金色に輝くパッケージ。中辛〜激辛との表示。良く分からないけど、辛さに強い妻、滝のような汗を流す私に合っているかも。ご飯を炊くのは面倒なので、クスクスを合わせることにする。この世界で一番小さいパスタは保存が効く。「賞味期限2008年になってるけど大丈夫だね♫」と妻。まぁ、匂いを嗅いでみれば分かるし、スープカレーと合わせれば大丈夫だと思うよ。楽観的な2人。内メシに備えて買い揃え直したスープ皿に、クスクスとスープカレーを盛りつける。「インパクトが足りないなぁ」と妻。ん、これじゃないか?特製スパイスミックスという恐ろしげな小袋が。これが激辛の素らしい。「おっ、良い感じ♬」控えめに赤い粉を振りかける私を余所に、妻の皿が真っ赤に染まる。「美味しいぃ♡」涼しげに赤いクスクスを頬張る妻、タオルで汗を拭く私。
「こうやって節約を続けて、今度はどこのホテルに泊まろうか」と妻。…え?
ある週末、京鼎樓恵比寿本店で絶品の小龍包を味わったお気楽夫婦。ちょっと早めの食事だったこともあり、飲み足りない気分。久しぶりに、も〜やんの店に行こうか。恵比寿駅東口の坂を下りる。大小の路が交わる複雑な交差点に出る。慣れない頃に、いつもここで迷ってしまった。今では通い慣れた小路に入る。通りに面した人気のバルを横目に、こぢんまりとしたエントランスからエレベータに乗り込む。ビルの最上階でエレベータを下りると落とし気味の照明と柔らかな音楽に迎えられる。恵比寿で食事をした後は、この店に来ることが多い。店名を書いたり、サイトで紹介するのはちょっと躊躇う。日によって、時間によって、空席がない場合があるから。という理由もある。前職の会社の大先輩が経営しているバーで、OBたちが集まる場所だから。というのも言い訳。早い話、ちょっとこっそり通いたい店。
お久しぶりです。「あぁ、久しぶりだね」マスターである大先輩との挨拶は短め。短期間ではあるけれど、妻の上司でもあったその人は、会社に在籍していた頃から肩の力が抜けていた。取締役まで勤めたその会社で、良い意味で浮いていたとも言える。カウンタの奥の席に妻と2人で陣取る。目の前にはシングルモルトを中心としたボトルが並ぶ。「今日は何にしますか」うぅ〜ん、今日はアイラではなく、ハイランドの何か…。「ハイランドねぇ、そうだなぁ、これ飲んだことはあると思うけど」マッカラン12年のボトルを棚から取り出す。はい、それお願いします。「今日はね、ソフトドリンクはグレープフルーツのフレッシュジュースができるよ」「あ、それお願いします」と酒が飲めない妻。コチンと乾杯。
「ところで、IGAね、さっきハイランドって言ったけど、これだけの地域のことを指すんだよ」マスターが棚の中から『モルトウィスキー大全』という本を取り出し、掲載されているスコットランドの地図を指し示す。あぁ、広いんですね。「そうなんだよ。だからモルトの傾向もいろいろあってね。薦めるのも難しいんだよ」あらら、中途半端な知識でお願いしてしまってお恥ずかしい。「へぇ〜、この本面白いですね」図鑑好き、地図好きの妻が興味を示す。ぱらぱらとページをめくるとボトルの写真、蒸溜所の紹介記事、詳細データが記載されている。「ベッドの中でちょっとだけ読むのに良いですね」確かに妻は、この類いの本を眠る前にちょっとだけ読んで眠りにつく。『香港飲茶読本』だったり、『シンガポール公式ガイドブック』だったり。活字だったら何でも良いらしいが、向き不向きもあるらしい。
「うん、この本は良い感じだね」かなり気に入ったらしく、フレッシュグレープフルーツをちびちび舐めながら、ダウンライトの灯りの下で読み耽る妻。「気に入ったみたいだね。土屋守さんっていう有名な人なんだけどね、この人の本はなかなか良くできてるよ」とマスター。そうですね。この本を抱えてスコットランドに行ってみたいですね。「良いね。俺も行ったことないんだけど、一度は行ってみたいね」良いですよね。目の前にシングルモルトの酒棚と、荒涼としたスコットランドの風景が広がる。その日の2杯目はエドラダワーという小さな蒸溜所の、芳醇で柔らかなシングルモルト。「うん、これあなたが好きかもね」テースティング程度ならOKの妻の評。「おぉ、IGA」あぁ、こんばんは。ご無沙汰してます。常連のOBが来店したのを潮に、帰り支度のお気楽夫婦。失礼にならない程度の間で席を立つ。恵比寿の夜、シングルモルトの夜を満喫。
「買ってきたよ♡」ある日、妻が1冊の本を差し出した。土屋守さんの『シングルモルトウィスキー大全』。『モルトウィスキー大全』よりも馴染みのある蒸溜所の紹介、中には日本の白州、山崎などの蒸溜所の紹介も。なかなか良いねぇ。「良いでしょ♬」その本は、さっそく妻のベッドサイドに、ナイトキャップの1杯に代わる、1冊として。
「ところで、こっそり通いたいとか書いてるけど、「OU」ってきっちりタイトルに掲載してるじゃない」・・・あ、そうだね。