なんてったってアイドル『高き彼物』加藤健一事務所

高き彼物キノ・ノゾミという劇作家、演出家がいる。劇団M.O.Pを率いて、初期の頃は『熱海殺人事件』『寝取られ宗介』などの、つかこうへい作品を上演。その後、オリジナルの脚本を多く上演し、読売文学賞を受賞した『東京原子核クラブ』などの名作を生んでいる。お気楽夫婦が初めて彼の作品に出会ったのは2003年。俳優座プロデュース公演『高き彼物』だった。自転車キンクリートのファンとして、演出の鈴木裕美、出演の歌川椎子に惹かれて観に行った俳優座劇場。そして、がつんと打ちのめされた。素晴らしい脚本に惚れてしまった。数多くの舞台を観ているが、その中でも間違いなくベスト3入り。私にとって記憶に残る作品となった。そしてその後、マキノ作品を追いかけるように観続けた。

カウンタ藤健一事務所の30周年記念vol.73の公演が『高き彼物』という情報。1987年のvol.7公演『ザ・シェルター』からずっと観続けている加藤健一とマキノの組合せ。その上、共演にあの、小泉今日子!KYON2!なんてったってアイドルである。世代的にはカラオケ三昧の日々の、同行女子たちのレパートリー。『キスを止めないで』『木枯らしに抱かれて』などなど。オチャメだった頃の記憶が蘇る(遠い目)。ということで、すかさずチケットをゲット。マキノ・ノゾミは妻と同郷、浜松出身。静岡県川根町という小さな田舎町を舞台にした物語は、実にいきいきとした遠州弁で演じられる。そんな名作の再演、そして生KYON2、それに遠州弁のKYON2。否が応でも期待は高まる。

コーヒーカップして、舞台は期待以上の出来映え。加藤健一もカトケンと呼ばれる、ある意味では中年のアイドル。いつも、どんな舞台よりも圧倒的に年齢層の高い客席。そのカトケンとKYON2の、そして脇を固める滝田裕介らのキャスティングがぴったり。舞台を観ているのに、昭和53年の静岡の田舎町で一緒に夏の1日を過ごしたような、自然に舞台の世界に入り込み、感情移入しまくった2時間余りを過ごした。やはり良い芝居だ。良い脚本だ。あざとく泣かせようとする物語ではなく、あるいは崇高な魂の物語に偏りそうになるところを遠州弁が柔らかく救ってくれる。17歳だった自分を思い出し、夏休みの1日を思い出す。そしてKYON2は、良い役者だ。ある意味でアイドルのまま、実に良い年齢の重ね方をしていた。

本棚う1軒行こうか。「少し街を歩かない?」お互いにどちらが先に言ったのか。芝居の後、いつものようにAサインバーで飲み、店を出たところでお気楽夫婦がどちらともなく言ったことば。そして向かったのはトロワシャンブル。フランス語で「3つの部屋」という意味の、同じ名前のカフェとバーが2軒並ぶ、老舗の風格漂う名店。(もう1軒はご近所にある)「この店は昔良く来たよね」そう言えば、このタバコの煙に燻されたような店に来るのは久しぶりだ。「この店は変わらないね」背表紙の剥げ掛った別冊太陽を手に取りながら、のんびりとコーヒーを啜る妻。変わらないもの、変わっていくもの、気付かず変わってしまったもの。良い芝居を観た後は、こんな店が相応しい。シモキタの街が相応しい。

んてったってアイドル。書きかけの記事を妻が一瞥。「ここで、私にとって妻が…なんて書かないでね」ぎくっ。

今年の秋はどこに行こうか?『春夏秋冬』by ヒルクライム

花の丘近、良く口ずさむ曲がある。頭の中をリフレインする曲がある。「なんかこの曲好きなんだよね」そう妻が教えてくれたビデオクリップ。大きなサングラスが小さな鼻からずり落ちそうな、細身の男性ヴォーカル。「今年の春はどこに行こうか?今年の夏はどこに行こうか?」ラップの部分は覚えられないけれど、繰り返す歌詞の部分が妙に耳に残る。「今年の秋はどこに行こうか?今年の冬はどこに行こうか?」見た目と歌詞のギャップに、なんだ?と思いながらMTVなどを視ながら気になって来る。「秋の紅葉も冬の雪も あなたと見たい あなたと居たい」何度も耳にする度、じんわりとして来る。涙もろいのは昔からで、年齢のせいではないと思う。けれど、ヒルクライムの『春夏秋冬』を聴く度に、優しい気持になって来る。

ランチセットる小春日和の週末、「紅葉を観に行こうか?」珍しく妻からの提案。お気楽妻の意向は「〜行かない?」「〜食べない?」という否定疑問形で伝えられることが多い。これは疑問形ではあるが、「〜行こう!」「〜食べよう!」と言う明確な意志。これを取り違えるとややこしいことになる。だから「行こうか?」という肯定疑問形で、それも具体的な提案の形を取った妻の発言には即答する必要がある。うしっ!じゃあサンドイッチでも買って、ご近所散歩に行こう!ところで、高尾山は混んでいるし、井の頭公園だとそのまま吉祥寺で飲みたくなるし、芦花公園はどうかな。「オーケー♪」妻の意思表示は短いほど満足の証。さっそく晩秋ハイキングの準備。ミルクティを温めてポットに入れ、おしぼりと紙ナプキンもスタンバイ。

flor店街を抜け、駅から少し離れた人気のパン屋に向かう。パン工房「FLOR」という可愛い外観の小さな店。ハード系のパンが好みの妻の嗜好とは違うけれど、ご近所パン屋としては合格。安くて美味しい人気店。お昼時の混雑ぶりはすごく、パンが並べられた棚の間に客が行列を作り、後戻りできない一方通行ルール。店の外まで繋がる列に並びながら何種類かのパンを選ぶ。普段だったら並んでまで買おうとは思わないけれど、その日は特別。メインの食事系パンと、甘いデザート系のパンを2種類づつゲット。途中の肉屋で思わず買ってしまった絶品ポテトコロッケを齧りながら、ぽかぽか陽気の街を歩く。「このコロッケは前菜ということで…」自分に言い訳するように呟く妻。アツアツのコロッケは、かりかりほくほく。歩きながら食べるコロッケはしみじみと旨い。

芦花公園んびりと歩いて芦花公園に到着。その昔、徳富蘆花が居を構えたという場所。正式な名称は盧花恒春園。徳富蘆花の旧居、ドッグラン、地元のNPOを中心に丹精された花壇が広がる「花の丘」などがある。トイレもきれいで、きちんと整備された落ち着いた公園。犬を連れた人たちが挨拶を交わし、落葉が積もる広場で子供たちがバドミントンに興じ、ベビーカーの親子連れがお弁当を広げている。全体に人も少ない穴場の公園でもある。お気楽夫婦は花壇を見渡すベンチでちょっと遅めのランチ。冬の柔らかな陽の当たるベンチは幸せ気分。うん、パンもなかなか美味しい。温かなミルクティを飲む。ミルクたっぷりのほっとする味。ふわぁと大きな伸びをする。今年の秋はどこに行こうか?小さく口ずさんでみる。

港のチケット、取れなくて残念だったね」と妻。けれど、それ程残念そうに響かなかったのは温かな陽気のせいだったのか。…今年の冬はどこに行こうか?

大人買いの日々「iPhone」と「カレーうどん」

iPhone人たちが集まった週末、美味しい中華料理を食べながら、話題はあちこちに飛んだ。「あれ、何て言うんだっけ?ウェスティンの合宿の時に行った、あの北京ダックの美味しかった店の名前・・・」例えばこんな風に、皆で行った恵比寿の中華料理店の名前が出てこない場合、解決方法はカンタン。妻が頭の中の飲食店データベースを検索して正解を出す。「あぁ、KIWAグループの胡同四合坊(ふぅとん・すぅはん)だね。恵比寿にあった郵便局を改築した店ね。でも今はもう閉店しちゃったみたいよ」こんな時の妻の頭の中は、「中華」「恵比寿」「KIWA」などのキーワードで店を抽出し、付随する情報まで提供する。飲食店、ホテルなどの妻の興味のあるジャンルには有効で、かつ最も早い検索方法だ。

ころが、人の名前になるとお手上げ。「あの子の名前なんて言うんだっけ?」と、例えば、芸能人の名前を思い出せない場合、「嵐のリーダーじゃなく、櫻井くんでも、ニノでも、松潤でもなくって、あの、ほら」「分かんなぁい」「誰だっけ?」と皆で一所懸命に思い出そうとしても名前が出て来ない。友人たちも一様に記憶中枢の回路の一部が閉じ始めて来た年齢。妻のデータベースは、「食」と「宿」が専門。「人」には全く興味がないため、データが蓄積されない。そこで登場したのがスカッシュ漬け独身男のiPhone。「嵐」「メンバー」と検索して「相葉くん」と答えを出す。おぉ〜っ!検索くんに賞賛の声。「私も欲しいと思ってるんだけど、メールアドレス変わっちゃうんだよね」妻は未だにVodafoneのアドレスを持ち、ソフトバンクをボーダフォンとしか呼ばない女。「変わらないですよ、大丈夫です」と検索くん。「え?そうなの?じゃあ、買うっ!iPhone明日買いに行く♫」

カレーうどんうと決まったら妻の行動は早い。翌日の朝、開店直後にソフトバンクのショップに走る。わずか1時間程後に「買ってきちゃった♪」と満面の笑みで帰宅。さっそくiPhoneを手懐け始める。何せMacのプロダクトはGUI(グラフィック・ユーザ・インターフェイス)がウリ。分厚い取説などは付いていない。ひたすら弄りまくって、飼い馴らすのが一番。それにしても、iPhoneのサクサクとした使用感は凄い。「私のパソコンなんかよりずっと速い!」と妻が驚く程、ネットのアクセスにはストレスがない。CMでお馴染みとなった指の動きで縮小拡大するタッチパネルに感動し、Macユーザの私でも改めてアイコンなどの表現力に驚き、フォントの美しさにうっとり。「おぉ〜、iPhoneを横向きにしたら、画面が横になる〜ぅっ!」素朴なトコロでも感動するお気楽夫婦。デジカメも必要のないほどのカメラ性能も買い。

んだか購買意欲に火が点いたって感じ。スーツ欲しいって言ってたよね?ニコタマに買物に行こうか!」などとホザくお気楽妻。100年に1度の大不況とは関係なく、彼女の勤務する(私も以前勤務していた)会社はたいへんな状況が続いていたハズ。「良いの、良いの。なんとかなるさ♫」そんなお気楽妻が点けた買物心の火がが引火してしまった私。スーツ以外にも、ワイシャツ×2を買い、ネクタイ×2を買い、ビジネスバッグを買い、球磨焼酎を買い・・・。「あぁら、私より買ってるかも」という妻も、片方を無くしてしまったピアス×2をオーダーし、バッグを買い、巌邑堂のお菓子を買い・・・。「なんかぁ、楽しいぃ〜♪」と妻。うぅむ、予定していた年末の旅行を航空券が取れなかったばかりにキャンセルした反動か。年に1度ぐらいは夫婦揃って罹る「突発性買物症候群」なのか。

めて晩ご飯は節約して、カレーうどんにでもしておきますか」そう言いながら古奈屋に向かうお気楽夫婦に、貯金ができる日はやって来るのか?

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SINCE 1.May 2005