Paris,New York City『RENT/レント』

P102rent1970年代の終わり、奨学金とアルバイトで貯めた小遣いをはたいて、パリに向かった。アリアンス・フランセーズへの短期留学という名目ながら、1日しか学校へは通わず、キャルト・オランジュという1ヶ月有効のメトロのチケットを片手に、パリの街を歩き回った。自分に何ができるのか、自分は何がしたいのか、焦燥感が身を包む。ルーブルで、オランジェリーで、ポンピドゥーセンターで、毎日のように絵を眺めるのだけれど、何も見ていないような、そんな日々。

1980年代の終わり、妻は初めてNYCに向かった。村上春樹を愛読し、フィッツジェラルドやカーヴァーになんとなく憧れていた。セントラルパーク、METやMOMA、自然史博物館を訪れては、新しい生活への漠然とした希望や不安を、…全く感じていなかった。というか自覚はしていなかった。なんとかなるさ、根拠のない自信と楽観。そんな日々。

RENT/レント』は、1996年初演のミュージカル『RENT』の映画化。そして『RENT』は、オペラ『ラ・ボエーム』を下敷きにした物語。一方は1990年頃のNYCのイーストビレッジ、もう一方は1830年代のパリが舞台。芸術の街に集う若きアーティストたち。病(一方はエイズ、他方は結核)と貧しさに立ち向かう恋人たちを描く。時代背景や場所は違っているが、心を揺さぶる“物語”そして“音楽”という普遍的な要素は共通している…はず。『ラ・ボエーム』は残念ながら観る機会がなかった。しかし、この映画のアクターたちの歌唱力、凄い。巧いというより、リアリティのある表現力。一人ひとりに魅力がある設定。特に、エイズで仲間の元を去るドラッグ・クィーン“エンジェル”の存在感と言ったら…。

同じ作品を観ても、感想や印象がまったく同じということは、確かにあり得ない。観る前から主題曲「Seasons of Love」に、やられてしまっていた私は、観終わった後、打ちのめされるぐらいに心を震わせていた。♬525,600分、一年をどうやって計る?昼、夕焼け、深夜、飲んだコーヒー、笑い、けんか。人生の一年をどうやって計る?愛ではどうだろう?愛で計れるだろうか?愛を数えてみよう。愛で時を刻み、愛の季節を作ろう、愛の四季が巡る♪…オープニングで舞台同様にピンスポットの下でメインキャストたちが歌ったその曲が、エンディングロールで再び流れた時に、涙をこらえるのに必死だった。

終映後、混雑する文化村ル・シネマ前のエレベータを避け、東急本店に向かう長いエスカレータに乗る二人。妻の第一声。「映画の中で、気になることがひとつあったんだよねぇ」ほほぉ、珍しく感想?この映画、妻にNYCの風景を観せたくて、そして自分が観ていない時代のNYCを観たかった。ん、何?「パンナムビルって、あの頃もうメットライフビルに変わってたかなぁ?違う気がするんだよねぇ」おいっ!そっちかい!

コメントする








002184383

SINCE 1.May 2005