“俺”と高田と畝原と『探偵はBARにいる』

Tantei-bar人となってしまったロバート・B・パーカーのスペンサーシリーズが、お気楽夫婦のヴァカンスの友だった。何冊か旅先で読む本をスーツケースに詰め込む夏の旅に、必ず1冊新作のハードカヴァーを選んでいた。ところが(仕方ないのだけれど)残されたパーカーの新作は日本未発売の2冊だけ。困った。そこで2人はスペンサーに代わる探偵を捜していた。そしてこの夏、1人の候補者を発見した。東直己「ススキノ探偵シリーズ」の主人公。名前は、俺。札幌、ススキノ在住。作品中では名を明かすことがない。誰かに自分の名前を呼ばれる場面ですら、巧妙に名を記すことを避ける。探偵と呼ぶよりも便利屋の方が相応しい。相棒は北海道大学時代の同級生、空手の達人の高田。この2人の関係が実に良い。

Roadshowストンの私立探偵スペンサーにも相棒はいる。ホークという、やはり格闘技の達人。ボストンの2人は互いを信頼し、支えながらも依存し切らないオトナの関係。セリフのやり取りもウィットに富み、ふふっと思わず笑ってしまい、2人と一緒にウィスキーのオンザロックスでカチンと乾杯したくなる。ところが札幌の2人は、だらしがない。俺は高田を頼りにしているけれど、高田は仕方ねぇなぁ〜という感じで、でもほぼ確実にサポートに回る。とは言え信頼し合ってはいて、打算的ではないけれど、オトナの関係ではない。ガキである。だからこそ面白い。一緒懸命な俺と、とぼけた高田の、ズレた、それでも息の合った会話が実に良い。スペンサーの後継者としてお気楽夫婦のおメガネに適い、一気に全作品をオトナ買い。

45years oldんな2人が映画に登場した。原作はシリーズ第2作『バーにかかってきた電話』、映画のタイトルは第1作『探偵はバーにいる』から取った『探偵はBARにいる』という作品。主人公の俺は、大泉洋。高田は、松田龍平。この2人が絶妙。掛け合いの間が良い。大泉のキャラは“俺”にぴったりだと映画を観る前から期待していたけれど、松田龍平がなんとも高田なのだ。力の抜け具合が、“俺”とは違った意味で浮世離れしたスタンスが、ツボ。くははっ!と笑ってしまう。原作との比較はするまい。これはシリーズ化しても面白い、小説とは違う種類のエンタテインメントだ。と思って観ていたら、エンディングロールで次回作を思わせるシーンが挟み込まれた。やられた。そして期待大。原作とは少しテイストが違うけれど、『釣りバカ日誌』が人気シリーズになったように。

Uneharaころで、東直己はススキノ探偵シリーズと並行して、もうひとつの探偵物語を現在の札幌を舞台に描いている。畝原という名の、ちゃんとした(してもいないか)探偵。まだ第1作『待っていた女・渇き』を読んでいる途中だけれど、これまたオトナ買い。やはり中年のスーパーマンではない主人公が好感度高し。一方、ススキノ探偵シリーズの俺は、第6作『探偵は吹雪の果てに』で一気に40代になり、今の札幌で活動している。長年たっぷり飲み続けたがために、お腹が緩くなる傾向にあり、ウォシュレット付きのトイレに拘る立派な中年になっている。ぷっ!と読みながら吹いてしまう描写もあり、電車内では注意をして読んでいる。5作までの硬さがやや薄れ、味わいのある物語になっているが、俺の魅力はそのまま。第8作まで読んだところで小休止。その間に畝原の物語を読み進め、2つのシリーズの時代の調整をしている。

っかりハマったよね」ハードボイルド好きの妻にも刺さった。日本映画など滅多に観に行かないのに、映画まで同行。映画を観終わり、お気に入りの沖縄料理屋(バーではなく)に向う。オリオンの生にミミガー、ラフテー、クーブーイリチーなどをつまみながら、原作と映画の違い、キャスティングなどでひとくさり。

お気楽夫婦は飲み屋にいる。

*いずれもじっくり秋の夜を酒を飲みながら楽しめる作品(飲み過ぎ注意!)

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