ふるさとの街へ「温故知新の旅」
2012年 8 月11日(土)
故郷を訪ねる度に、新たに発見するものがある。例えば、着陸しようとする飛行機の窓から眺める庄内平野の緑の広がり。見渡す限りの水田の稲翠は、こんなに瑞々しく美しいものだったのかと目を見張る。例えば、鶴ヶ丘城址(鶴岡公園)のお堀の傍らに佇む大宝館。城下町の風情漂うステキな場所だ。人は日常的で身近なモノには興味や関心を示さない。ましてや高校を卒業するまでの、わずか18年間の子供の目には見えなかったモノがある。母が病に倒れ、入院した病院に見舞った日々。改めて故郷を訪ね、故郷を再発見。オトナの目線で眺める故郷の風景は美しく、地の食材は魅力に満ちていた。
母が亡くなる前、地元の食材を使ったスローフードのレストラン「アルケッチァーノ」を訪ね、和モダンの宿「湯どの庵」「亀や」などでの滞在を楽しんだ。母を見舞う旅で故郷を再発見した日々。そして、数年前に胃癌を摘出した父が、別の名前の病で再入院。やはり見舞いで訪れた故郷の街で、地元の食材を贅沢に使った絶品料理を味わった。山形は固有の在来種が豊富。夏になると当たり前に食べていた「だだちゃ豆」は、今やすっかり有名ブランド。全国的には知る人ぞ知る、鮮烈な朱色の温海の赤かぶも、鮮やかな茄子紺色の小振りな民田なすも、メロンが一般に流通する前のスターだった早田ウリも、故郷独自のものだった。知らずに育ち、新たに知った。
故郷を離れて30年余り、妻を伴い故郷の街を温ねて新たに知ることもある。例えば、藤沢周平。高校時代までに作品に接した記憶はなく、ましてや同郷の作家であるという認識はなかった。映画化され、地元で撮影された「たそがれ清兵衛」「武士の一分」などの作品で知ることになった読者。数年前に完成した「藤沢周平記念館」を訪ね、その作品の背景を知り、全作品読破を老後の楽しみとすることにした。冷やし中華ではなく、冷たいラーメン「はっこいラーメン」を初めて味わった。百軒濠というお堀の傍らに建つこぢゃれたレストランで食事をした。故郷は近く遠く、古く新しい。
「まだ古鏡って作ってるんだぁ」父の見舞いに同行した末弟が、地元ではお土産の王道である菓子を発見し、嬉しそうに呟いた。訪ねたのは完成したばかりの老舗菓子店「木村屋」のファクトリーショップ。おぉ、チョコレート饅頭もあるよ。同じパッケージだ。このマロンってパイ生地のお菓子が好きだったなぁ。うわぁ、お祝い用の生菓子もあるよ。そんな懐かし話をひとくさり。忘れていた記憶が一気に蘇る。新しい建物の中に、伝統のお菓子。こんな空間も悪くない。
「お義父さんも元気だったし、美味しかったし、楽しかったし、良い夏休みになったね。良かったねぇ♫」妻が珍しく殊勝なことを言う。こちらこそ、ありがとう。妻と一緒だからこそ、故郷を新たに知ることができる。「さぁて、いよいよ夏休みの本番だぁ!」と妻の本音。いよいよ来週、大切な友人の待つ街へ!