悲しみをぶっ飛ばせ!「パクチーハウス」
2014年 3 月02日(日)
小田急線経堂駅から農大通りを南へ。授業を終え駅に向かう学生たちの流れに逆らい、3〜4分ほど歩いたところに、何やら秘密めいた店がある。まず、入口が分かり難い。看板もオシャレながら、控えめで目立たない。何度か訪問していても見過ごしてしまいそうになる小さなビルの2階。その上エレベーターしか店に行く手段がない。そして、そのエレベーターに乗った途端、パクチー嫌いの人は卒倒する。すでに何とも言えないパクチーの香りが漂う。パクチー嫌いにとっては、パクチー臭が充満していると表現するだろうが。あ、もしかしたら踏み絵?リトマス試験紙?ダメだと思ったら、ここで引き返してね!という店のメッセージか?そんな店。
何しろメニューには逃げ場がない。パクチーの入っていないメニューがない。どの料理もパクチーが漏れなく入っている。パクチーの入っていないのはアルコール類だけ。ちなみに、酒の飲めない妻がオーダーするソフトドリンクも、パクティ(笑)。そう、この店のメニューはネーミングも秀逸。パクチーのかき揚げは「パク天」と呼び、パクチーのキムチは辛パクとなる。「パクパクピッグパクポーク ビッグパクパクパクポーク」という舌を噛みそうな長い名前の、たっぷりのパクチーと豚肉の脂の甘さが絶妙な組合せの料理(私のお気に入りで毎回食べる)は、省略しないでオーダーする必要がある。これが愉しいのだ。この店のノリを醒めた目で見ずに、一緒に乗っかるに限る。
パクチー好きは女性が多い。男女5人で訪問したその日、同行のスカッシュ仲間と私以外、店内を見渡す限り客は女性しかいない。2人のオヤヂは異分子。けれども2人とも店の雰囲気をパクチーと一緒に楽しんでしまう。「良いね、ここ♬」オヤヂ同士で深く頷き合う。「ぐちゃぐちゃが美味しい皮蛋豆腐」をネーミング通りにぐちゃぐちゃにしながらつつく。これも実にんまい。が、パクチー好きの集まりの皿からは、パクチーが先になくなってしまう。「パクチー追加しようか」ここで店のお約束。追加のパクチーは「追パクお願いします!」と叫ぶ必要がある。そして声が伝われば、なんと無料。ですよねとスタッフに話すと、「あ、お持ちします」とのこと。オトナの対応。
「何だか元気になるね♬頑張って出てきて良かった」昨年末に父親を病気で亡くしたスカッシュ仲間。こんなに父親っ娘だと思わなかったと本人も言うように、その落ち込み方は半端なモノではなかった。その日の宴会テーマは「パクチー食べて寒さや悲しみをぶっ飛ばせ!」と、パクチー好きの彼女を元気づけようと言う企画。なのに肝心の彼女が風邪をひいてしまい、危うく単なるパクチー好きの会になってしまうところだったのだ。「ワインも飲んじゃおうっと♬」おいおい、病み上がりで大丈夫かい?と尋ねる仲間たちの声も柔らかい。美味しいモノを食べ、気の置けない仲間と楽しく飲めば、たいていの悲しみは吹っ飛んでしまう…はず。
「はい、パクチー♬」この店で写真を撮る時には、スタッフはそう声を掛ける。もちろんお約束のパクチーの冠りもの付き。オトナとしては、ここまで楽しまねばというノリ。パクチー好きの楽しい仲間たちと、実に美味しい時間を過ごした。この店のコンセプトは「No paxi,No life」だけれど、加えて「No friends,No enjoy life」だと実感した夜だった。