招かれ上手な奥さまたち「Sweet 10th Anniversary」

flowersbearる日の朝、妻がそっと呟いた。「10年だね」うっ!脇の下に汗がひとすじ。しまった。忘れていた訳ではなかった。少し前まで皆を誘ってパーティをやろうかとか、どこかに行こうかとか2人で話していた。その日を楽しみにしていた。けれど、直前の父親の入院騒ぎで失念してしまっていた。最終的には何も決めていなかった。それどころか、普段通りに仕事帰りにスポーツクラブに行って、夕食は体重増加気味だからカロリーメイトでも食べようか、などと話をしていた。10周年にカロリーメイト!あぁ…(涙)妻が出かけた後、閃いた。スカッシュ仲間の奥さま2人にメールを送った。急なお誘いだけど、今夜空いてる?そんなメールに2人は応えてくれた。「おめでとう♡もう10年かぁ…飲みましょう!祝いましょう!」「おめでとう!お誘いありがとう!夕方の予定を調整して返事するよ♬」ふぅ。よしっ、ここからが腕の見せ所だ。

RefrigerateurVeuve Clicquet10年前のその日、一緒に暮らすようになって6年めにして、お気楽な2人は夫婦になった。友人たちを招いてパーティを開催したのは、パークハイアット東京。たっぷりオシャレしてきて!とお誘いした中に奥さまの1人もいた。「楽しかったよねぇ〜♬とっても良いパーティだった。みんなシャンパンをず〜っと飲み続けてたよね(笑)」一緒に飲んで酔っぱらう度に、何度も繰り返し繰り返し、その日のパーティのことを褒め続けてくれた。もう1人の奥さまは、その当時はまだお付き合いがなかったためお招きできなかったけれど、スカッシュ仲間の披露宴で3人で『Wedding Bell」を歌った、やはり気の置けない友人。こんな日にお誘いするにはぴったり。“スカッシュの後にカロリーメイトじゃなく、何か軽く食べてお祝いしよう♡何か企画を考えるよ”さっそく、友人たちを誘ったことは伏せて妻にメール。よしっ!次はプレゼントだ。

GODIVAビアス社(De Beers)に騙され、Sweet 10 ダイヤモンドを買うつもりはなかった。(ちなみに、デビアスとは、ダイヤモンドは永遠の輝きとか、婚約指輪は給料の3ヶ月分とか、実に巧みなイメージ戦略を打ち出すダイヤモンド・シンジケートだ)狙ったのは“Sweet 10”に掛けたウケ狙い。“お祝いのスイーツ”、例えば10粒のショコラ。早めに仕事を切り上げて玉川髙島屋に向う。地下のスイーツコーナーで目に入ったのは、ジョエル・デュラン(Joel Durand)のチョコレート。「A」から「Z」まで、味と香りの違う26種類のチョコ。例えば「O」はプロヴァンス産のオレンジ、「J」は中国産のジャスミンなど、世界中の天然素材をチョコに封じ込めている。アルファベットを組み合わせてメッセージも作れる。これだ!「TENTH WEDDING ANNIVERSARY」と23粒のチョコを箱詰めにしてもらう。10粒よりも予算は大幅にオーバーしたけれど、チョコ好きの妻には良いだろう。お招きした友人たちにも「THANK YOU」と贈ろうかとお願いすると、「申し訳ございません。Hが売り切れてしまいまして…」なるほど。私が買った1粒のHが最後だったらしい。残念。よしっ!次はお店の予約だ!

joel dulanalphabet約したのは、スポーツクラブの近くにあるイタリアンレストラン。選択の基準はシャンパンが置いてあること。妻に店名と企画内容を伝えると「えぇっ!それは良いね」珍しく大きなリアクション。「おめでとう!」「ありがとう!」まずはシャンパンで乾杯。店のメニューにあったのはモエ・エ・シャンドン。「美味しい♬」「美味しいよねぇ♫」「IGA-IGAたちのパーティでは、ずっとヴーブ・クリコ飲み放題だったよね♡良いパーティだったね」酔ってもいないのに、その話題が出るのは早いなと思ったら「これ、プレゼント!」包みの中には黄色い冷蔵庫のパッケージのヴーブ・クリコのイエローラベル。オシャレ。「クマのストラップも!」「これは私から♫」大きな花束とゴディバのトリュフ。「うわぁ!ありがとう」妻の笑みが零れる。これは私からとチョコを披露。「ほぁ〜っ」「おっ!凄いね」「素敵だぁ♡」後で皆で食べちゃおうぜ!「わぁ〜いっ」声を揃える3人。期待通りの反応。選んだ甲斐がある。プレゼントの交換?も無事に終え、シャンパンを飲み、食べ、話が弾む。それにしても、急なお誘いにも関わらず、素敵なプレゼントまでいただくとは予想外。感謝。招き慣れ、招かれ慣れているからこその、奥さまたちはさすがだ。

ぅ〜っ!楽しかったぁ。良い記念日になったね♬」帰りのタクシーで満足そうに妻が微笑む。スカッシュ仲間の奥さま2人が来てくれたことが最大のお祝いで、最高のプレゼント。「サプライズだったよ」良かった、良かった。これからも、こんな Anniversary が続けられますように。

晴天の霹靂、幸運のサプライズ!「ウェスティンホテル仙台」

Westin Hotel SendaiAfternoon Tea天の霹靂だね、そう父親に送ったら「全くだ」と短い答えが返って来た。つい最近まで、バレーボールのコーチをしていた。風邪さえもひかず、病気には全く縁のないまま喜寿の祝いを迎えた。いつまでも元気で若々しいままの父親だった。けれど、最近までコーチをしていたと言いながら、20年以上も前のことだったと気付いた。ある日、故郷に住む父親が胆石で緊急入院。手術の前に精密検査をしたところ、胃の入口に癌細胞が見つかった。場所が悪かったとのことで、全摘との診断が出た。本人に説明した上で、手術ということになった。本人が病気を自覚できて、選択肢があることは幸せだねとメールを送った。脳溢血で倒れ長いリハビリ生活を送って逝った母。突然の交通事故で還らぬ人となった末弟の義父。いずれも選択肢のない、病と死だった。「そうかもしれないな」と入院中の父から短い返信。

Living RoomLiving room2得しなきゃ手術するような人じゃないしね」妻の言うことももっとも。見つかった胆石に感謝すべきだろう。手術前にお見舞いに行こうかと妻に告げると、「そうだね、元気な姿を見られるのも最後だしね」とストレートな反応。確かに全摘する胃は再生しない。手術が上手くいっても、手術前の健康な身体は完全には戻ってこない。それを実感できない息子を余所に、最後だと言い切る妻。そのことばで振り切れた。全ての命は有限で、違えこそすれ順番なのだ。だったらどこかに旅行ついで、という感じで見舞いに行こうか!「OK!良いねぇ♬」これこそが本来のお気楽夫婦だ。そう言えば仙台にウェスティンができたらしい。「ん、良いんじゃない♪調べてみるよ」妻がさっそくネット検索し、部屋を選ぶ。「クラブ プレミア ルームっていうのが、ビューバス付きで良い感じだよ♡」さっそく予約。

Mt.Zao ViewHeavenly Bed親の手術も無事に終わり、高速バスで仙台に向う。到着後、仙台名物「はらこ飯」をいただき、東北初の外資系ラグジュアリーホテル、ウェスティンホテル仙台に向う。今年の8月の開業とのことだが、スタッフの対応は柔らかで心地良い。クラブラウンジに案内され、ソファに座りゆったりとチェックイン。客室に入ると、37階建ての上層に位置するエグゼクティブフロアの展望の素晴らしさに目を見張る。足下に広がる杜の都の風景を堪能。バスルームも広く、明るい…明る過ぎ?西日が差し込み暑いぐらい。部屋が空いていたら変えていただけないかとフロントに依頼。何度かのやり取りの後、同じタイプの部屋は空いていないが、同じフロアの大きめの客室はどうかとホテル側から返答。では部屋を見せていただいてから決めますと返す。案内されたのは、デラックスコーナー スイート!うわぉ!

City ViewBathroom王連峰と中心街を臨む眺望も、各2面の窓を配し明るくゆったりとしたリビングとベッドルームも、2つのトイレ付きの92㎡という部屋の広さも、文句の付けようもなし。どうしようか?と妻に尋ね、迷う姿を演出しつつ、気持は決まっていた。まぁ、こちらの方が良いかもねという風に頷く妻を確認し、この部屋でお願いしますと答える。ところで、お部屋の料金は?「同じタイプですから、ご予約いただいた料金のままで結構です」と神のお告げのようなことば。“同じ”理由がないけれど、さらっと言っていただくと気持が軽くなる。この辺りの対応もさすが。ありがとうございます。お手数をお掛けしましたと心からのお礼。よし、外出は最小限にして、このホテルを堪能するぞ!お気楽夫婦の滞在方針が決まった。

っそく24h開いているジムで走るためのランニングシューズを購入。チェックイン直後にレンタルシューズがないことを知り、ジムを使うことを諦めていたけれど方針を変更だ。クラブラウンジでアフタヌーンティを堪能し、こぢんまりとしたジムで汗を流し、レインシャワー付きのシャワーブースでさっぱりした後は、TV付きのバスタブでのんびり。バスルームを出ると仙台の夜景がパノラマのように広がる。ふぅ〜♡幸せな風景だ。「お義父さんの検査の結果が出て、退院したらまた来なくちゃね」と妻。ん?それは、お見舞いに?それともこのホテルに?

“おいしい”の原点「紅屋」鶴岡市

tsukidashiikura覚とは、甘味、酸味、苦味、塩味の四味に加えて、“旨味”の五味を感じること。人の味覚は元々持っているものではなく、作られるものだという。だとすると、子供の頃に食べて、慣れ親しんだ味が原点となる。母が作った料理の味、地元の食材で作った郷土料理の味。それが、おいしいの原点。ある週末、私の生まれた庄内(山形県)に出かけた。庄内地方は、古くから米所として知られてきたばかりではなく、最近では地産地消レストランとして名を馳せる「アル・ケッチァーノ」で使われる食材をはじめとして、地元特産の食材も知られるようになった“美味しの国”だ。白山のだだ茶豆、温海の赤かぶなどは、今や全国区の有名な食材。加えて、民田なす、赤ネギ、月山筍、庄内柿などの(地元ではフツーに食卓に出ていたけれど)全国的には珍しい食材が話題になることがある。

maitakehatahata元の食材を味わうために、お気楽夫婦が向ったのは、前から気になっていた「紅屋」という日本料理の店。長く地元の市役所に勤めていた長弟に言わせると、役所幹部が利用する接待の店。紅屋で食事をすると伝えると「それはまたご立派なことで」と返信してきた。そんな店らしい。末弟を伴い、3人で赤い暖簾をくぐる。落着いた雰囲気の店内。けれど、初めての客を圧するような空気はない。畳敷きの個室にテーブルが据えられる和モダンの佇まい。お酒以外のメニューはない。店のサイトによると「お客さまごとに献立を考えさせていただく」のだそうだ。人によって食べる量も、好き嫌いもあるからと続くメッセージには納得。3人とも小食で、好き嫌いは特になく、酒を飲むのは私だけと伝え、いくつかの食材をチョイス。

matsutakeyaki-matsutake茶とビールで乾杯。突き出しのシメジの胡麻和えに続いて出てきたのは、イクラの醤油漬け。新鮮なイクラに軽めの味付け。鮮やかなオレンジ色の輝きは神々しいほど。その何粒かを口にするだけで、イクラ本来の旨味がじんわりと舌の上に広がる。あぁ、この味だ。子供の頃、母が作ってくれた味。「すっごい美味しいねぇ♬」妻が唸る。そうでしょうとも。続いて天然の舞茸。栽培できるようになり、全国に流通し始めたのは何年ぐらい前だろうか。キノコ取りに行って発見すると、余りの嬉しさに舞ってしまう…というのが名前の由来だと幼い頃に父に聞いた。そんなことを思い出しながら、かりっと揚がった天ぷらを齧る。う〜ん、これは良い香りだ。舞茸の香りや味はこんな鮮烈なものだったのか。踊り出したい気分を抑えて、これは日本酒でしょう♡と地酒をお願いする。きりっと辛口の冷酒に良く合う。実に旨い。

kurigohanBeniyaこに見事な大きさのハタハタの焼物が登場。1尾は素焼き、もう1尾は庄内地方独特の田楽で。くぅ〜っ旨い。脂が乗った身の美味しいこと。「ハタハタって、こんなに美味しい魚だったんだねぇ」妻が絶賛。確かに、これは絶品。「卵も美味しいね、初めて食べたかも」ぷちぷちの小さな卵(ぶりこ)は、とろとろの糸を引く独特の食感。ん、んまい。けれど、子供の頃には毎日のように食卓に出てくるハタハタにうんざりしたものだった。それは今思えばゼータクなことだと思うが、子供の頃はがっつりと“肉”が食べたかったのだ。それにしても、これらは全て懐かしい味。子供の頃に、意識せずに刷り込まれた“おいしい”の原点。大人になって改めてその味を再確認する。そして妻が発する美味しいというコメントに嬉しくなる。笑みが零れる。これが、ウチの故郷の味だよと(ことばに出さずに)胸を張る。

して、地の松茸。残念ながら故郷で松茸を食べた記憶はない。今年は豊作でお得な値段だろうと踏んで思わずオーダー。ふわぁっと上品な香りが鼻孔を抜ける。美味しい。けれど、これは味の原点ならぬ、追加点。新たに刻む美味しさ。さらに、シメには栗ごはんとキノコ汁。派手なアピールをするでもない、けれどしっかり旨味を持った、実に朴訥とした田舎の秋の味。病床の父を見舞い、自分の“おいしい”の原点を改めて味わうことのできた秋の旅だった。

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SINCE 1.May 2005