フェアな視点『硫黄島 二部作』

Photo_40 彼が主演した映画は、残念ながら1本も観たことがなかった。西部劇俳優だった頃の作品も、『ダーティ・ハリー』シリーズも。監督としての作品も、話題になった『マディソン郡の橋』などは、生涯観ることのないだろう趣の映画だったし、機上の小さなモニターで観た『ミリオンダラー・ベイビー』が唯一彼に触れた作品だった。それも、暗く派手さのない、彼に持っていたイメージと遠い作品だなぁという感想。早い話、彼には親しみも、期待も、何も持っていなかっ た。

・・・この2作品を観るまでは。



まず観たのは『硫黄島からの手紙』。お気楽妻が余り観たがらないタイプの作品だったから、会社帰りに独りで。・・・で、驚いた。彼の監督としての才能に。今までのイメージは、ゼロクリア。凄っい。“日米相互の視点から描く という惹句にも、所詮アメリカ人の視点で日本を描いても、ステレオタイプの ものになってしまうんだろうな、という不安もあっという間に消し飛ぶ。ワーナー・ブラザーズの配給が不思議なぐらい「邦画」そのもの。日本人の俳優が日本語で出演し、アメリカ兵のセリフに字幕が入る、からではない。日本人の監督が撮ったと言っても誰も疑わないだろう“日本に対する誤解が全 くなストーリー。当時の日本人の“精神構造、その背景となった文化、社会、戦争に対する庶民のスタンス。そして、上官と部下の関係、人情の機微が、繊細に、巧みに描かれている。変な言い方だが、日本人として嬉しいぐらいに、素晴らしい。



そして、2本目。妻と一緒に『父親たちの星条旗』を観た。同じ監督が2部作として撮ったとは思えないタッチとストーリー。別の意味で驚く。大胆。ヒーローがいない。大衆が、父が、母が、息子が描かれる。そして、ネイティブ・アメリカンが。単純な2部作として、裏と表を観せられると思っていた私の予想を大きく(良い方に)裏切られた。確かに、日米の対比はある。全く同じ戦闘シーンをいくつか使用し、同じシーンなのに、全く違う(逆の)視点で観てしまうという“ワナ”に、あえてハマって楽しむこともできる。同じ時代の日米の生活水準の差を見せつけられるという皮肉な見方もできる。戦闘シーンを中心とした特撮の素晴らしさ、リアリティある“の描き方など、映像面でも見せ場は多い。



でも、この映画に与えるべきは、決してそんな評価ではない。何よりも驚くべきことは、日米それぞれを描く監督の視点が圧倒的に“フェアだという こと。どちらかに偏ることなく、二つの国の、表も裏も、本音も建前も、光も影も、軍人も庶民も、抑制された静かな視点で、丁寧に描かれる。作品の中で、「鬼畜米英って習ってきたけど、アメリカ人の母親も同じなんだ」というような意味のセリフが象徴的。豊かさや文化の違い、家族や夫婦の関係、などの日米の“違いを映像では際立たせながら、人間としての感情や死を“同じのとして、二つのストーリーを綴る。そして何より、戦争というものを、真の意味の“善”と“悪”の二元論で語るべきではない、という公平さ。絶賛!



ぜひセットで観るべし。2本観ると、感動は2倍以上。どちらを先に観るかは、人それぞれ。「私は『父親たち・・・』 から観て正解?」地味な邦画が苦手な妻が尋ねる。そうだね、君はこの順番の方が『硫黄島・・・』は楽しめるかもね。二度目だけど、ご一緒しましょう。それにしても、クリント・イーストウッド監督、次回作も期待してます。

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