ベストセラーはお好き?『博士の愛した数式』小川洋子

p10ベストセラーと呼ばれた作品を意識して避ける傾向にある。『世界の中心で、愛を叫ぶ』などは、絶対読むものか!と今でも誓っている。片山恭一さんに恨みがある訳でも、他の作品を読んで気に入らなかった訳でもない。映像やマスコミが作り上げたベストセラーというイメージが先行し、嫌だった。かつての角川映画と角川文庫の関係のように。ドラマ化されて、後からベストセラーになるという場合も、原作が好きだったのにドラマが「?」という内容だと、原作を読んだ時間まで遡って嫌いになったりもする。“あざとさ”を嫌う、正義感溢れる男なのだ。・・・って正義感ということばを誤用してるけど。

しかし、この本は逆だった。寺尾聰の博士が気になり、(ダイワハウスCMで教授として「なんでダイワハウスなんだ?」とつぶやく姿も重なり)無性に読んでみたくなった。「ぼくの記憶は80分しかもたない」という惹句も気になった。(寺尾風に呟いた。「どういう意味なんだ?」)そして、最初の1Pめ、最初の1行で、小川洋子さんの世界、「博士」と「√(るーと)」と「私」の世界に魅せられた。先が読みたくて、でも物語は終わって欲しくない、と思う一冊。博士と√の友情に笑みを浮かべ、博士の義姉にやきもきし、最後の数ページで成長する√の姿を描く場面では、涙してしまうという感情移入の極み。・・・参った。

私は数学が苦手だった。“感情”や“表現”の入り込む余地のない、数式が嫌いだった。対数などは「実生活で、何に使うっていう訳?絶対使うことないじゃないか!」と八つ当たりした。なのに、この一冊の中に登場する数々の数式や定理は、博士の口から出てくると不思議と愛おしく、柔らかく、温かく、すっと頭の中に入ってくる“美しい存在”になる。この本に中学生の頃に出会っていたら数学嫌いも多少緩和されたかもしれない。惜しいことをした。(もちろんその頃には、まだ書かれていなかった訳だが)

ロードショーではもう上映していないが、映画も観たい。しかし、ここで問題が残る。“√”だ。彼は、どんな子役が演じるのか。自分のイメージと違う場合、原作まで遡って嫌いになるのが怖い。「ん~、どうしよっかなぁ。観たいけどなぁ。下高井戸シネマあたりで観る?」「ん?観ないよ。地味そうだし。アクションもないし。人も大勢死なないし。楽しくないと映画は観ない。それに、原作とイメージ違うって私の場合ないし。本を読んで自分で映像をイメージしないから」・・・今日は妻のセリフが長い。けど、持論はいつも通り。

2つのコメントがあります。

  1. 日っ歩~美味しいもの、映画、子育て...の日々~


    博士の愛した数式~新潮文庫

    小川 洋子
    博士の愛した数式

    第一回本屋大賞に輝いたベストセラー作品、「博士の愛した数式」が、やっと文庫本になりました。話題になっていた頃から、ずっと「文庫になったら読もう」と決めていて、その時を待つこと数カ月、ついに、その時がきたのです。

    そし…

  2. 日っ歩~美味しいもの、映画、子育て...の日々~


    博士の愛した数式

    この作品は小川洋子作の「第一回本屋大賞」を受賞した話題の?同名小説
    を映画化した作品です。

    主人公の天才数学者「博士」は、交通事故による記憶障害のため、80分しか記憶がもちません。何を話していいかわからず混乱した時には、言葉の代わりに数字を持ち出します。博士の…

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