Archive for 6 月 6th, 2009

ヴァチカンの記憶(ネタばれ注意)『天使と悪魔』

Photo_220世紀が終わろうとしていた。2000年12月31日、お気楽夫婦はローマにいた。そして、当時のローマ教皇ヨハネ・パウロⅡ世の法話を聴いていた。そう、2人は敬虔なカトリック…ではない。年末からパリ、ニースと旅した最終目的地がローマ。21世紀の始まりを迎えるに相応しい場所はどこだろうかと考え、ヴァチカンを選んだのだ。ところが、前日から体調不良で寝込んでしまった私。食欲はなく、きちんとした食事は取れない。ホテルのベッドに入ったまま妻が買ってくるフルーツを食べる。それだけが唯一の栄養源。20世紀最後の日をうとうととベッドで過ごし、21世紀のはじまりをベッドの上で迎えた。ヴァチカンに行くことも叶わなかった。妻はベッドの隣で本を読み、読み終えるとテレビを視ていた…らしい。そこでずっと流れていた放送が教皇の姿と、サン・ピエトロ広場に集まった群衆の映像だった…らしい。(なにしろ私はずっと夢の中だった)

Photo_3 2009年6月。10年近く経って、ようやくそのヴァチカンにきちんと対面することができた。ひとつはダン・ブラウンの小説『天使と悪魔』というミステリで。そしてもうひとつはトム・ハンクス演じるハーヴァード大学の宗教象徴学者ロバート・ラングドン教授が活躍する映画『天使と悪魔』の映像で。ところで、映画では『ダ・ヴィンチ・コード』の続編と喧伝されいるけれど、続編では決してない。『天使と悪魔』がシリーズ第1作。主人公は同じでも物語に連続性はない。『ダ・ヴィンチ・コード』がレオナルド・ダ・ヴィンチの名画に隠された謎を追うストーリーであったのに対し、『天使と悪魔』はカトリック教会の総本山、ヴァチカンの歴史と秘密を紐解く物語。ガリレオ・ガリレイとヴァチカン、そして現代まで続く科学と宗教の対立がキーワード。わずか1日の内に起きたできごととは思えないほど、濃密でスピード感溢れる展開。一気に読んでしまう面白さ。

Photo_4 して映画と小説ではかなり内容が違う。映画のエンディングロールでも、Based upon 「Angels & Deamons」 DAN BROWN と記されていた。小説での主要登場人物の1人は映画では全く登場しないし、セルン研究所でのヴィットリアの専門分野も違うし、ある重要な登場人物との関係も違う。ラングドンもラストのあるシーンに絡まない。そして何よりも暗号の解き方が小説と映画ではかなり違う。さらには映画では時間の関係で暗号の解読が速い。おいっ!速すぎないか!と突っ込みを入れたくなる。小説は文庫本で上中下3巻からなる長編だし、映画は154分の長尺とは言え詳細まで忠実に再現できない。だから映画は楽しめないかというと、そんなことは全くない。小説とは違う楽しみ方がある。

Photo_5画『ダ・ヴィンチ・コード』がパリとロンドンの観光名所をカメラで辿ったように、『天使と悪魔』はローマとヴァチカンを巡る。体調のせいで観て回れなかったローマの名所旧跡を、ヴァチカンのサン・ピエトロ広場を、システィナ礼拝堂を観ることができた。それどころか、実際にヴァチカンを訪ねても観られなかった裏の顔をたっぷり観させてもらった。「そうかぁ、こんなとこだったんだぁ」映画を観終わった妻がナチュラルな嫌みをちょっと含んだ発言。えぇ、すいません。私のせいです。本来の体調だったら、あぁっ!ほらほら、あそこだぁ、行ったよね!という感想なのだろう。(妻はそんな大げさなリアクションは取らないけれど)でも、モノは考えようだ。次にイタリアを訪れた際に、きっと新鮮に語り合うのだ。あぁ、ここだ。小説では死んでしまった4人目の教皇候補者が映画ではラングドンに助けられた噴水は…などと。(いくつかネタばれ失礼♪)

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