さよならサギサワ『大統領のクリスマス・ツリー』

dsc家の書架を何気なく見ていたら、中島らもの隣りに彼女の本が並んでいた。ん~、接点もなさそうだし、あっちで仲良くやっていそうもないけど、2人とも酒好きということで、会話がはずんだり…しないだろうなぁ。でも、その偶然がちょっと奇妙で楽しかった。私の好きな現役の作家が何人かこの世を去った。…中島らも、ちょっと前に景山民夫、そして、鷺沢萠。彼らが創造する新しい世界が生まれなくなってしまう、これ以上新しい作品が読めない、ということが淋しい。

『大統領のクリスマス・ツリー』という作品で鷺沢萠を知った。大学在学中のデビュー以降、溢れる自信とそれ以上の不安を一緒に持っているような、危なっかしく、それでも愛おしい、そんな気持を初期の頃の彼女の作品にずっと感じていた。…そんな彼女の作品でワシントンD.C.に、大統領のクリスマスツリーがあると知った。

NYC駐在となった友人夫妻を訪ねた冬のテーマは、クリスマスツリーを訪ねる旅、だった。ロックフェラーのツリーも、フォーシーズンズのツリーも、コンドミニアムの無名のツリーも、そしてもちろん、ホワイトハウスのツリーも、訪ねた。「あなたは私のクリスマスツリーだったのよ」…切ない別れに向かって展開する、その作品の印象的な主人公のセリフ。え、これで終ってしまうんだ?という予想しなかった展開に、心が軋む。でも、その後にやって来る爽快感。主人公にエールを送りたくなるエンディング。

周囲から見たら、クリスマス一色の街の雰囲気に浮かれ、記念写真を撮る日本人夫婦だったと思う。読んだその本のストーリーを忘れてしまったように、大統領のクリスマスツリーの前でも脳天気な夫婦はシャッターを押した。でも、お互いに辛い別れを経験し、終わりのない物語はないと知っているからこそ、いられる限りいつも一緒にいるんだ、ということも知っている。「…でも普通、別れのシーンが印象的だったからって、夫婦揃って観に行かないでしょ?」感情移入せずに本を読む、妻が言った。…うぅむ。

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