夕陽を眺める人々「コートダジュール」

jpgプロムナード・デ・ザングレ(イギリス人の散歩道)と呼ばれる海岸沿いの歩道の上に、長く、長ぁく、数キロにも渡ってベンチが続いていた。陽の高いうちには人影も少なく、大量のベンチが何のためにあるのか分からなかった。そして陽が西に傾きかけ、遠くの海にオレンジの光が映えるころから、どこからか人が集まり、あっという間に空席を探すのに苦労するほどの混雑となった。・・・そう、ただこの場所で、夕陽を眺めるためだけに、大勢の人が集まっているのだった。

クレープの屋台が出て、焼き栗売りの自転車もやって来る、夕焼けの紺碧海岸。そうして太陽が沈み切り、周囲が薄闇に包まれ、ベンチが街灯に照らされる頃まで、何時間も、ボーっと打寄せる波と水平線の向こうの空を眺める人々。ずーっと。ただ、ずーっと。波の音を聴き続ける。ずーっと、ただずーっと。

親に連れてこられ、退屈した子供達が海岸に降りた。波打ち際で波と遊ぶ。大きな波に追いかけられ、逃げ切れずに水浸しになった。小さな笑いが起きた。そんな時以外は、人の声が聞こえてくることもない。年老いた夫婦、恋人同士、親子、友人たち、いろんな組合せの人々が、大きな声で会話を交わすこともなく海を眺めている。確かに素晴らしいオレンジ色だった。何の迷いもなく、淋しさも含まず、明日を確実に約束してくれる感じの、ある意味ラテン的な脳天気さを撒き散らす夕陽だった。

真冬のニース海岸。パリに住む友人に言わせると、「熱海みたいなもんでしょ。若い人は行かないわよ」ということらしい。そう、かもしれない。でも、楽しかったよ、そんな人たちをボーっと眺めているのも。悪くないよ、毎夕ごとに犬を連れて海岸線を散歩するのも、きっと。・・・友人にそんな報告をしなければ。

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