ハレの場?お気軽?「デパートのレストラン街」

京王の鮎ザエさん一家のお出かけは、デパートで買物をして、屋上遊園地で遊び、大食堂でお食事。古き良き日本の、誰の未来も明るかった高度成長時代の、デパートが元気で庶民の憧れでありハレの場であった頃のお話。(そう言えば、日本初の屋上遊園地である浅草松屋の屋上遊園地が今年5月に閉鎖された。亡くなった祖母に連れられて、初めて東京に遊びに来た5歳の頃、松屋の屋上で遊んだ記憶がある…写真でね)けれど、今もデパートの食料品売場とレストラン街は元気。街の有名店、老舗店が出店していることが多い。その功罪はあるけれど、お気楽夫婦も割と頻繁に利用する。玉川髙島屋の「たん熊北店」や東急本店の「銀座天一」だけではなく、デパート激戦区の新宿でもちょくちょく食事をする。

小田急の北京ダックえばある日、京王百貨店の「京都 田ごと光悦舗」で夏の味、鮎をいただいた。京王百貨店と言えば駅弁大会。それ以外にはめったに足を運ぶこともないデパートだけれど、沿線住民としては身近な店ではある。和洋中の「お好み食堂」も残る庶民的なレストラン街の、敷居の低い京都の老舗でお気軽な食事。例えばある日、小田急百貨店の「チャイニーズダイニング 桃杏花」で北京ダックをいただいた。ニュートーキョーが運営する、北京ダックが1人前から食べられる気軽で美味しい中華料理店。小田急百貨店新宿店はマンハッタンヒルズと称して、和食の名門「なだ万賓館」、200年の歴史を持つフィレンツェのイタリアンレストラン「リストランテ マキャベリ」など、沿線の雰囲気そのままに高級店から、とんかつ「和幸」などの庶民的な店まで幅広いラインナップ。混み具合もほどほどの、使い勝手の良いレストラン街。

髙島屋の韓国料理巻いて巻いてれに対して髙島屋新宿店は豪華ラインナップ。かつてお気楽夫婦が頻繁に訪ねた「鮨源」をはじめ、上層階に35店舗の人気レストラン、カフェが揃う。定期的に店の入れ替えもあり、小籠包の「鼎泰豐」もレストラン街に引っ越し、ガレット料理の「ブレッツカフェ クレープリー」や、韓国料理「KOREAN KITCHEN 水刺齋(スランジェ)」など新顔も出店。韓国料理好きのお気楽夫婦はさっそく「水刺齋」を訪問。薬食同源の思想に基づいた、葉もの野菜で何でも巻いて食べる新しいスタイルの韓国料理を満喫。お馴染みのえごまの葉、サンチュ以外にもバイオレットクィーン、サムペチュ、レッドマスタードなど、日本では珍しい野菜をたっぷり味わえる。おススメ。

髙島屋のフォー髙島屋のフォー屋間がない時にはベトナミーズ ヌードルカフェ「ニューベトナム◆フォー麺」でさっくり食事をするのも良い。店内のスタッフはほぼ全員ベトナム人。ベトナムのガイドブックや観光ガイドマップなども並ぶエスニック感満載の店。地元で食べたら1/5ぐらいの価格で食べられるだろうフォーをちゅるちゅる。素朴なファストフード。んまい。そろそろベトナムも訪問する頃合いかなぁ。そんな会話をしながら食べるお気楽夫婦。2人にとってデパートのレストラン街は、時にはハレの場でもあり、お気軽な食事の場でもあり、選択肢も広く、適度に敷居の低い美味しいモノ満載の嬉しい場所。そこそこ安心できるサービスレベルと味。

つての大食堂が1店舗で何でも食べられるデパートなら、現在は複数の専門店の中から選べるショッピングモール。デパートという業態の盛衰がレストラン街にも現れる。「今度はガレットを食べに来なくちゃね♫」妻の嗜好は髙島屋タイムズスクウェアにフィットしているらしい。

ご近所鮨屋常連化計画「鮨いち伍 & 鮨あらい」千歳烏山

いち伍看板タイ気楽夫婦は困っていた。御用達の新宿髙島屋の鮨源山本さんという馴染みの板さんがいなくなり、鮨と言えばこの店、という店がなくなってしまったのだ。それから3年。もちろん鮨を断っていた訳ではない。あちこちの有名店や、評判の店など、ここと思う店には何度か訪れてみた。けれど、お気楽夫婦にフィットする店に出会うことはできなかった。何もゼータクを言っている訳ではない。2人が望む店は、季節毎のネタが豊富で、板さんとの距離は近からず遠からず、他の客と必要以上に絡まずに済み、リラックスして食べることができて、味と価格のバランスが良い店。あ、ゼータクかも。

イワシサバんなある日、ご近所に気になる2軒の寿司屋を発見した。美味しい店が増えている通称「八間通り」沿い。これは行かねばと、さっそく2つの店を立て続けに訪れた。まずは今年の4月に開店したばかりという「鮨いち伍」へ。入口横に丸い穴を穿つ独特の風貌、白いのれんが清々しい。店を入ると白木の低めのカウンタ。ガラス扉のネタ箱が2つ。それも客の前に持ち運ぶことができる箱。ほほぉオサレ。空腹の2人、すぐに握ってもらうことに。白身は何がありますか。「鯛ですね。昆布締めと、煮切り、漬けでご用意してます」ほほぉ×2、びびっときた2人。それ、一貫づつ、3種類ください。

イカエビく輝く盛り板の上に、3つの味の鯛の握りがタイミング良く乗せられる。う、旨いっ!「凄いっ!美味しいねぇ♪」昆布締め好きの妻が歓喜にむせぶ。光り物は?「鰯とシメ鯖です」じゃあ、それください。うぅ、旨い。次は赤身、中トロ、大トロください。煮切りで輝くマグロたちが、がつ〜んと旨い。その後もイカは丁寧に包丁が入れられ、車海老の踊りは、その場で茹でられる。良いネタ、良い仕事。「それにしても静かだね」BGMはなし。小さな店のため客の会話も少ない。まだ若いご主人も最小限の会話しか返さない。店の空気がやや重い。「でも幸せに美味しい♫」と妻はご満悦。

あらい看板カラスミ1軒目の店で調子に乗ったお気楽夫婦。翌週末、2軒目の店を訪問。やはり開店したばかりの「鮨あらい」。白木のカウンタ、ネタのケースが目の前にないのは「いち伍」同様。お酒を選びながらカウンタの中のご主人を眺めると何か仕込み中。おぉ、大好物のカラスミだぁ。まずは、カラスミください。ざっくりと切られた黄金色に輝くカラスミ大根をつまみに、きりりと冷えた日本酒をちびり。この店も良い感じのスタートだ。続いて握り。カワハギの握りに肝を添えて。ふんふん、冬の味。旨い。飾り包丁を入れたコハダもなかなか美しい。BGMが柔らかく流れ、適度な込み具合の店内は良い雰囲気。

カワハギあらいのコハダこに独りの客がやって来る。お気楽夫婦同様に初めてらしく、ご主人と盛んにことばを交わしながら食べる。聞かずとも耳に入る会話。「大間のマグロが…」「食楽の最新号の鮨特集で…」という声が聞こえてくる。ふぅ〜ん、天然の生マグロで取材されたんだ。ウチも食べなきゃ。ということで、さっそく中トロをオーダー。うん、確かに美味しい。「いやぁ、この周辺の美味しい鮨屋を探していたんですよ。感激だなぁ。やっと見つけました」と声を挙げる独り客。気持は良く分かる。ここにもお気楽夫婦と同様の計画を持っていた人がいた。けれど、大袈裟なリアクションが微妙だなぁ。

足の夕餉を終え店を出た2人。さっそく次の作戦を検討する。「誰かを誘って食べに行きたいと思うのは、どっちの店かなぁ?」どちらも美味しいけれど、1度だけの訪問では満足できる居心地の良さは得られない。まずはどちらかの店を選び、ご近所の友人夫妻と一緒に訪問するところから始めよう。ご近所鮨屋の常連化計画。お店に通い、自分たちにとって居心地の良い店にする道程は、まだまだ長い。

■食いしん坊夫婦の御用達 鮨いち伍 訪問記

戦争の余波「水たき 玄海」

Photo_94すっかり春めいた季節に、浮かれたお気楽夫婦は「春物のセーターを買いに行こう!パーカーを買換えよう!」・・・と、“買物モード”100%で新宿に向かった。目指すは高島屋。土日出勤の代休とした平日の夕方。いつもより店に向かう人が少ない。平日の特権だなぁ、などと思いつつ店に入る。と、目の前には大きな白い壁。改装中ご迷惑をお掛けしますという貼紙。そうだったと思いつつハンズ方面へ歩こうとすると行き止まり。うへっ!仕方なく迂回して東急ハンズへ。やはり客はまばら。

“百貨店戦争”が起こっている。工事中の東京メトロ13号線が<地下鉄副都心線>という、もう少しどうにかならなかったの?という名前で2008年に開通する。池袋と新宿、渋谷を結ぶ新路線。山手線と同じじゃないか?という指摘には、さらに説明がいる。池袋発着の東武東上線、西武池袋線がこの<副都心線>に乗り入れるのだ。つまり、池袋は“通過駅”となってしまうリスクもあり、駅の東口の西武百貨店、西口の東武百貨店が改装。そして新駅<新宿三丁目>の最寄り駅となる伊勢丹新宿本店に対抗し、京王百貨店、高島屋も大改装中、という訳だ。そして、2012年には渋谷経由で東横線と乗り入れし、横浜方面の商圏とも競合する文字通り“百貨店戦争”が勃発ということらしい。

Photo_95ということで、“買物モード”から“食い物モード”に気持をシフト。お気楽夫婦は気持の切替が早い。先行改装済のレストラン街に向かう。季節は春、山菜の天ぷらかなぁと一軒の店に向かうが、スタッフの対応の悪さに入店中止。水炊き専門店<玄海>へ。改装後、ぐっと落ち着いた内装になり、禁煙席のテーブル間は距離に余裕があり、良い雰囲気。小さな器にちんまりと何種類もの料理が並ぶコース料理がお徳感あり。いずれもきちんと仕事がしてある美味しい品々。

水炊きは、胸肉、腿肉、つくねに加え、レタス、ズッキーニ、水菜という鍋には珍しい取り合わせ。この新鮮野菜が鶏ガラスープに相性抜群。しゃきしゃきと実に旨い。柚子胡椒でさっぱりといただく。メインの鶏肉はいずれも滋味豊かでうまうま。スタッフの対応も細やかで柔らかい。つい頼み過ぎで食べ残した<鶏レバの山椒煮>の持ち帰りをお願いしたところ、快く引き受け丁寧に包んでくれた。なかなかの対応。百貨店戦争の余波で買物を諦め、偶然入った店で美味と出会い、心地良い時間を過ごした。「後は贔屓の寿司屋探しだねぇ」・・・妻は、山本さんのいない<鮨源>には距離を置くらしい。やれやれ。

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SINCE 1.May 2005